誠実な人ほど短期思考に陥りやすい
市場にとって、この状態ほど扱いやすいものはありません。なぜなら、この行動はきわめて予測しやすく利用しやすいからです。短期的な思考に傾いた人間は、自ら損失を急いで確定し、利益を十分に伸ばす前に手放し、結果として不利な価格帯で再び参加し直す。誰かに強制されたわけではありません。人が自分自身の判断で、そう振る舞っているのです。とは言っても、短期思考は「性格の問題」ではありません。
多くの場合、それは誠実さから生まれます。慎重に取り組みたい、無駄な失敗を避けたい、判断を間違えたくない。その意識が強い人ほど、「まだ結果が出ていない状態」に耐えられなくなります。そして、市場に対して早く答えを求め始めてしまう。
しかし市場は、問いを急ぐ者に応じません。説明もしなければ、納得感も与えない。ただ価格が動き続けるだけです。短期思考とは、「市場に問いを投げ、その場で答えを引き出そうとする態度」と言い換えることもできます。市場がこの態度に返す反応は、いつも同じです。早く脱落させる方向に働く。
こうして早く勝とうとする人ほど、長く残る行動を選べなくなる。長く残れない人は、いずれ必ず不利な位置で判断を下すことになる。
本書第7章の問いである「なぜ『勝とう』とする人ほど負けるのか」。その最初の答えは、ここにあります。市場は、勝ちたい人を選びません。ただ、時間と共に判断できる人間だけが、残り続ける場所なのです。
努力と結果が比例しない残酷な世界
投資の世界は、残酷です。努力している人が、結果を出すとは限らない。それどころか、努力しすぎた人ほど、大きく負けてしまう場面すらあります。これは怠け者の言い訳ではありません。市場の構造そのものが、そうなっているのです。
私たちは、学校でも、仕事でも、スポーツでも、努力は少しずつ成果に変わる、と教えられてきました。勉強すれば点数が上がる。練習すれば技術が身につく。経験を積めば評価される。
努力とは、本来「自分でコントロールできる範囲」を広げる行為です。だから多くの分野では、努力は正当に報われることが多い。学習も、仕事も、技術の習得も、積み重ねた分だけ成果に近づいていく。しかし市場では、この前提がありません。投資の結果の大半は、自分の外側で決まるからです。

