父親が喀血して寝込んでいた

青山誠『宇野千代 恋を糧に生きた、その幸福な人生』(角川文庫)
青山誠『宇野千代 恋を糧に生きた、その幸福な人生』(角川文庫)

数日ぶりの実家、父に気づかれぬようこっそりと台所にまわり、炊事をしていたリュウに恐る恐る声をかける。と、なにやら様子がヘンだ。聞けば俊次が喀血かっけつして倒れたという。それを聞いた千代は奥の自室で寝込んでいる父のもとに駆け寄る。と、わずか数日の間に容貌が激変している。痩やせ衰えて顔色は蒼白そうはく、これは只事ただごとではない。藤村家には帰らず、看病を口実にそのまま何日も実家に居座りつづけた。俊次も婚家に帰れとは言わない。重病で気弱になったのか、足を摩さすったり体を拭いたり世話を焼く娘のやりたいようにさせて、押し黙っていた。

正直、父の病気の心配よりも、実家に居ることを許された嬉しさのほうが勝っていた。千代はこのまま藤村家には戻らず、亮一も結婚に不満で家出したまま。伯母もこうなっては諦めるしかない。

結局、俊次の無茶ぶりから始まった結婚生活はわずか10日余りで終わり、なし崩しに離婚が成立したのだが。しかし、すでに役所に結婚届を出している。千代は14歳にしてバツイチになってしまった。

【図表1】宇野千代の結婚・離婚歴
※『宇野千代 恋を糧に生きた、その幸福な人生』の巻末年表より編集部作成、年齢はその年の元旦で1歳年を取ったとする「数え」で換算
宇野千代が尾崎士郎と結婚していた時代(1926~30年)の写真
宇野千代が尾崎士郎と結婚していた時代(1926~30年)の写真。『決定版 昭和史 第4巻』(毎日新聞社)より(写真不詳/Public domain/Wikimedia Commons)
宇野千代の3番目の夫、作家の尾崎士郎
宇野千代の3番目の夫、作家の尾崎士郎(1898~1964年)『文芸公論』1(3)より。1927年3号。(国立国会図書館デジタルコレクション/https://dl.ndl.go.jp/pid/1890341)

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