父親が喀血して寝込んでいた
数日ぶりの実家、父に気づかれぬようこっそりと台所にまわり、炊事をしていたリュウに恐る恐る声をかける。と、なにやら様子がヘンだ。聞けば俊次が喀血して倒れたという。それを聞いた千代は奥の自室で寝込んでいる父のもとに駆け寄る。と、わずか数日の間に容貌が激変している。痩せ衰えて顔色は蒼白、これは只事ではない。藤村家には帰らず、看病を口実にそのまま何日も実家に居座りつづけた。俊次も婚家に帰れとは言わない。重病で気弱になったのか、足を摩ったり体を拭いたり世話を焼く娘のやりたいようにさせて、押し黙っていた。
正直、父の病気の心配よりも、実家に居ることを許された嬉しさのほうが勝っていた。千代はこのまま藤村家には戻らず、亮一も結婚に不満で家出したまま。伯母もこうなっては諦めるしかない。
結局、俊次の無茶ぶりから始まった結婚生活はわずか10日余りで終わり、なし崩しに離婚が成立したのだが。しかし、すでに役所に結婚届を出している。千代は14歳にしてバツイチになってしまった。
宇野千代の3番目の夫、作家の尾崎士郎(1898~1964年)『文芸公論』1(3)より。1927年3号。(国立国会図書館デジタルコレクション/https://dl.ndl.go.jp/pid/1890341)
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