底辺を上げるのではなく、天井を上げる

「彼(家長)の場合も、あのチームの枠に落とし込んでいこうという頭はなかったかもしれないです。やっぱり彼の良さが突き抜けていって、それがチームの基準になっていくことのほうがいいんです。彼が一番上手いのであれば、こっちとしては『いや、もっともっと上手くなってくれよ』と求めます。

この間も、チーム内で話したんですけど、上手いやつはもっと上手くなる。走れるやつはもっと走れるようになっていく。身体の強いやつはもっともっと強くなっていく。サッカーの上手さだけではなく、さまざまな部分で上げていく。そうすることでチームの大きさってどんどんどんどん大きくなっていくと思います」

メッシはひたすらメッシらしく――その考えは鬼木の場合、どの選手にも当てはまるということだろうか。

それから鬼木は両手で小さな四角をつくった。

「僕の場合も同じことで、監督の発想がこれくらいであれば、どんなにいい選手がいても、この枠の中で収まってしまいますから、自分自身も発想を尽くしていく。もしくは選手から学ぶこともあります。

底上げという言葉は一般的には下のほうの人たちを上げていくイメージですけど、僕は上が上がれば勝手に全体が上がっていくというか、むしろ上を上げていかないと底上げはできないと思っています。天井が決まっていたら。それ以上はもういけないですから」

マネジメントをしない。

個性の輝きや個人の楽しさが最優先で、その後に組織がある。

底辺を上げるのではなく、天井を上げる。

インタビューを初めて10分と経たないうちに、事前に想像していた鬼木のイメージは覆されていた。

そして、日本で最も勝っている監督は続く問いにも意外な答えを返してきた――。

「まずはチームより個」という鬼木監督。
撮影=齋藤葵
「まずはチームより個」という鬼木監督。

(文中敬称略)