総乗客数10億人で死亡事故はゼロ
翌5月、史会長は株主総会の壇上に立った。ところが、新型車両の導入に沸くはずの場は祝賀ムードとはほど遠く、目立ったのは謙虚な謝罪だ。
会長が取り上げた問題は、信号システムの障害による大幅な遅延である。台北―台中間の苗栗区間で、分岐器の制御ユニット内のパワーモジュールを交換していたところ、トラブルが発生したという。
上下線とも1時間あたり3本に絞って運行は続けたものの、多くの乗客の旅程が乱れたと台北タイムズは報じている。鉄道局は、2007年の開業以来、設備の不具合による遅延としては最大だったとしている。
事態の丁寧な説明を終えると、会長は堅調な業績へと話を移した。
発表によると、開業当初は1日平均6万人だった利用者は、今年は23万5000人を超える見込みだ。開業から19年でおよそ4倍に増えた計算になる。
昨年すでに8207万人いた年間乗客数は、今年は8388万人へと順調に伸びる見通しだ。別途台北タイムズが伝えたところでは、開業以来の総乗客数は10億3000万人を超え、運行に起因する乗客の死亡事故は1件も起きていない。
昨年の定時運行率は、遅れ5分未満を定時とする基準において、99.31%を確保した。自然災害の影響で前年を0.19ポイント下回ったものの、災害による中断を除けば運休は1本もない。
停電しても時速30キロで10キロ走る
次期車両を再び日本のメーカーに依頼した背景には、こうして日々高い実績を出している現行システムへの信頼がある。
N700STの第1編成の出荷を、7月30日に日立・東芝らで構成する企業連合「日立東芝スプリームコンソーシアム(HTSC)」が発表した。山口県の笠戸工場を出発し、台湾へ向けての船出となった。
最高運転速度は時速300キロメートル。これは現行の700Tと同じ数値で、速さそのものは変わらない。台湾高速鉄道が新型車両に求めたのは、より速く走ることではなく、より多く、より快適に運ぶことだった。
車内は細部まで配慮が行き届いている。スタンダードクラスでは、背もたれをリクライニングさせると座面も一緒に下がり、ビジネスクラスには体を包み込む形状の座席が並ぶ。
全席に電源コンセントを備え、フルアクティブ制振制御装置が走行中の振動を大幅に低減する。授乳室には洗面台、コートフック、ベビーシートが置かれ、車いす用スペースも700Tより増えて6席分が設けられた。
N700STには、東芝のリチウムイオン電池「SCiB」を使った自走システムが搭載されている。台北タイムズによると、停電しても時速30キロで約10キロ自走でき、トンネルや橋の上を脱して安全な場所まで移動できる。停止した場合も、バッテリーが最大30分間、照明やトイレの洗浄など車内の基本設備に給電する。
走行中の快適さだけでなく、地震の多い台湾において、万一の災害で停車した際の安全までを視野に入れた設計だ。

