スタッフの「実質時給」は400~500円
「下請けの限界が見えていたからです」
重みのある一言だった。川西さんは20代のとき、カバン職人の世界に飛び込んだ。それから約20年、ミシンの振動が体に染み込むまで、朝から晩までカバンを縫い続けてきた彼にとって、下請けのまま成長する未来の姿が見えなかったという。
内職スタッフ3人の力を借りながらカバンを縫っても、1カ月に作れるカバンの個数は最大700個。手元に入る加工賃は1個あたり約3000円。そこから材料費、管理費、諸経費を引くと、出来高制で働くスタッフの作業時間で換算した「実質時給」は400~500円程度にしかならなかった。
さらに稼ごうと数をこなすと、品質が甘くなる。そうなると取引先からクレームが入り、値段が叩かれ、稼ぎが減る。負のスパイラルとの闘いが下請けの世界だった。
「下請けを続けても成長はない」
値上げが無謀な行為だとわかっていたが、「負のスパイラルから抜け出して、加工賃を少しでも上げたい」一心だったという。そう強く思ったのは、初めて社員を雇用したことが大きく関係していた。
カバン作りが好きでカワニシカバンに見学しに来た現女性社員を「絶対生活できるようにするから、うち来て働いてくれへんか」と、反対する両親も含め説得し誘った責任があった。
「取引先に平謝りして、前の加工賃で下請けを続けようかと安易な選択肢が頭をよぎりました。ただ、このまま下請けを続けていれば、内職スタッフの賃金を上げることも、社員を雇うこともできずに成長のないままでいると思ったのです」
決断を下すとき、カバン職人になる前の自身の姿が浮かんだ。高校卒業後、自動車整備士、浄水器の訪問販売員、iモードのコンテンツ営業、パチンコ店員、古着屋店員、ウェブデザイナーと職を転々として、仕事で直面する困難から逃げてきた。そのこびりついた癖を変えるため、がむしゃらにカバン職人として修行してきた。今があるのは、職人として数々の困難に向き合ってきた結果だ。
1週間後、前へ進む覚悟を固めた川西さんは、スタッフの前で宣言した。
「カワニシカバンをブランドにして自分たちの商品を販売していこう!」


