選択的注意と質問のフレーミング効果
この変化の背景にあるのが「選択的注意(selective attention)」です。人は膨大な情報の中から特定の側面に注意を向け、その結果として判断や感情が方向づけられます。
「なぜ辞めたいのか」と問われると、注意は否定的情報に集中し、その重みが過大に評価されやすくなります。理由を探す行為自体が都合のよい情報を選択し、既存の辞める態度を強化することがわかっているのです(Kunda,1990)。
また、離職面談に関する研究では、「辞めたい理由」を問う群では離職意向が上昇する一方、「続けられる条件」を問う群では意向が大きく低下することが報告されています(hom et al,2017)。
つまり、質問が注意の方向を変え、その後の意思決定に影響することを示しているのです。
他方、「どうすれば続けられるか」という問いは、改善可能性や肯定的資源に目を向けさせ、認知の再構成を促します。これは認知行動療法の認識の枠を転換する「リフレーミング」とも一致するアプローチです。
離職意向は単なる不満の強さだけでなく、仕事の意味づけや将来の見通しによっても左右されます。
したがって、相手が曖昧な意識の場合の面談では、原因追及よりも選択の幅を広げる問いを用いることが重要です。問いの設計そのものが、意思決定の質を左右するといえるでしょう。
1990年東大大学院教育学研究科を退学後、同年には東大の医学系研究者ら共にとベンチャーの(株)認知科学研究所を創設し、東大医学部公衆衛生研究室にてストレスと創造性の研究成果を事業化。それ以後は95年に通信機器メーカにて営業・事業開発の部長職に就き、アップル社やNEC、住友3M、NTTなど100社以上のコンサル・研修業に従事。20代の学生時代より教育改革のために私塾「エミール」設立、東進スクール研究所顧問、eラーニングの(株)デジタルナレッジ顧問や販売ソフト企業の非常勤取締役など歴任する。他に公的な業務としては、早稲田大学IT経営戦略研究所客員研究員、立正大学心理学部、医系大学の非常勤講師などを歴任。また、CRM協議会(初代事務局長)など15件の業界団体を自ら創設して新しいビジネスモデル創りを推進。現在は主に「ビジネス心理検定」の資格普及と、AI活用の思考法の教育・コンサル業に従事。著作には『サクッとわかる ビジネス教養 心理学』(新星出版社)、『ど素人でもわかる心理学の本』(翔泳社)、『ビジネス心理学』(経団連出版)など60冊ほど。TVでも「ナカイの窓」等でレギュラー出演・企画し、「しぐさ行動分析」の専門家で知られる。