「持てる者」と「持たざる者」の分断
日本では、住宅街の4軒のうち1軒が、持ち家でありながら家計に経済的な余裕がないのです。
このひとたちは、ほとんど価値のない持ち家を手放すと家賃を払うことができないため、転居することもできず、いわばマイホームに「監禁」されています。
それに対して、非持ち家世帯のうち9.1%が「金融資産3000万円以上」と回答しています。
専門職など高収入の仕事をしながら都心のタワマンに部屋を借りている若者もいるでしょうが、その多くは、維持管理が面倒な持ち家を売却して高級有料老人ホームなどで暮らすことを選んだ裕福な高齢者でしょう。
日本の資産格差はアメリカほどではないでしょうが、それでも確実に「持てる者」と「持たざる者」の分断が起きています。そしてインフレは、収入のほとんどを生活費などに充て、資産形成をする余裕のない「持たざる者」の家計を直撃するのです。
すべての経済政策が失敗した日本の未来
現在のようなインフレが続き、構造改革などの経済政策がすべて失敗したらなにが起きるのでしょうか。詳しくは拙著『プアジャパン』に当たっていただければと思いますが、結論だけ、現実の日本経済に即して予測してみましょう。
・既得権の壁にはばまれて、構造改革は中途半端に終わる。「労働市場の流動化」はかけ声だけで、正社員の既得権が守られ解雇規制は緩和できず、正規/非正規の「身分差別」はなにも変わらない。
・インフレに応じて名目賃金は上がるものの、賃上げが物価の上昇に追いつかず、実質賃金が下がって日本人はどんどん貧乏になる。
・財政健全化と「責任ある積極財政」が対立して、効果的な財政政策ができず、選挙の前のばらまきや場当たり的な減税(食料品消費税ゼロなど)ばかりが行なわれる。
・債務残高が高止まりし、「破綻もしないが将来不安だけは強い」状態が続く。国民は年金制度の持続性を疑い、NISA(少額投資非課税制度)で海外の株式市場に投資し、資産を防衛しようとする。
・増えつづける「貧困高齢者」に対処するため年金・医療の社会保障費が増大し、財政を逼迫させて、現役世代は十分な支援を受けられず少子化が加速する。
・病院の赤字が拡大して国民皆保険が維持できなくなる。適切な治療は自費診療の病院でしか受けられなくなる。
・認知症の高齢者が増えるが、介護施設が足りず、街に認知症者が溢れる。認知症の高齢者を標的にした詐欺が広がり、誰も信用できなくなる。
・分配の歪みが固定化し、個人間の経済格差が拡大する。同時に、(多くの分配を受ける)高齢者と(分配の原資を提供する)現役世代の世代間対立がはげしくなる。
・貧困層が増えすぎて生活保護では対処できなくなる。国民は自分の生活に精いっぱいで、ホームレスは“自己責任”と見なされるようになる。
・問題を解決できない政府が信頼されなくなる。経済学も同じで、どの理論も役に立たないというシニカルな気分だけが残る。ひとびとは経済政策への関心を失い、自分と家族の生活を守ることだけしか考えなくなる。
スタグフレーションは「停滞(stagnation)」と「インフレーション(inflation)」を組み合わせた造語で、景気が悪化して失業者が増え、それにもかかわらず物価だけが上がるという、経済学のなかで最悪の状態のひとつとされます。
人手不足の日本は(幸いなことに)、失業率だけはずっと低いままです。そうなると、「みんなが一生懸命働いても物価の上昇に賃上げが追いつかず、生活は苦しくなる一方」という社会が予想できます。『プアジャパン』ではこれを「日本型スタグフレーション」と定義しています。
日本は人類史上、未曾有の超高齢化という構造的な問題を抱え、どの政権も「成長戦略」を掲げながら、成長できなかったという重い現実があります。そう考えれば、これから日本がスタグフレーションに向かうという可能性はけっして低いものではありません。

