ヤフオクで古本屋よりも安く買えるワケ

とはいっても、実際になると、ヤフオクはちょっととっつきにくいなあという感じがするかもしれません。

現に私自身も、最初に入札したときには「はたして、大丈夫かな」とおそるおそるやってみた、というのがほんとのところでした。

けれども、入札の結果、「落札しました」という連絡が来て、あとは「Yahoo!かんたん決済」というシステムで支払をするのが原則です。振込票を書いて銀行振込をする手間も、口座振込に郵便局へ出向く手間も要りません。

すなわち、ヤフオク自体が仲立ちをしてお金のやり取りまで、すっかり世話してくれる。取引の際、いちいちこちらの個人情報などを入れたりはしなくていいのです。事前に所要のデータをヤフオクに登録してあれば、そこから自動的に落ちるようになっているのです。

だから、本当に簡単で、しかも多くの場合、古書店で買うよりもかなり低い金額で落ちます。

なぜかと言うと、応札する人たちも、多くは古本屋さんたちのようですが、彼らは時価で買ったら儲からないので、それほど高い値段での札は入れません。本の市価相場が10万円くらいだなと思ったら、5万円前後がその鍔迫つばぜり合いのところ。もう時間切れ近くともなると、最後の人が10円高く入れたなんていうところで落ちている。

古書にある読書とは別の愉しみ

ヤフオクを始めたのはここ2、3年ですが、その分、古書店から買わなくなりました。

林望『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)
林望『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)

で、結局は蔵書が増えてしまって置き場にも困っていますが、とはいえ、ほんとうに善い本が思いがけず手に入ったときに、それを愛玩するのはとても楽しいものです。

同じ本でも木版印刷された原本で読むと、活字本や写真で複製した影印本えいいんぼんで見るのに比べると、不思議に心に沁み込んできます。そうしたことは、やはり読書ということの、大いなる楽しみの一つです。

たとえばまた、「勝安房」という朱印がしてあると、この本はもともと勝海舟が持っていた本だな、とわかる。そういう書物をたまたま手に入れ、読みながら「昔この本に向かい合って勝海舟が座っていたんだな」などと思うのも、また楽しいもの。そうした来歴はだいたい蔵書印や識語の有無でわかります。

幕末に「勝安房」として知られた勝海舟
幕末に「勝安房」として知られた勝海舟(1823~1899)(画像=東洋文化協會/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

だから、有名な蔵書印や識語のある本の愉しさは格別、また無名な蔵書印であっても、これは誰の印だったのかなあと、あれこれ探索するのもまた、なかなかおもしろい。それは読書の楽しみとはまた別の愉しさでもあります。

林 望(はやし・のぞむ)
作家・書誌学者

1949年、東京生まれ。作家。国文学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国文学。著書に『イギリスはおいしい』『節約の王道』『「時間」の作法』など多数。『謹訳 源氏物語』は源氏物語の完全現代語訳、全10巻既刊9巻。