アサヒビールが販売数量の公開を辞めたワケ
2020年にアサヒが販売数量の公表をやめたのは、「キリンに負けるのを、世間に知られるのが嫌だから」と考えるのが順当だろう(アサヒは否定)。
アサヒが数量を公表していないので推定値ではあるが、2020年にキリンは11年ぶりに首位を奪還した。なお、キリンのイオン向けPBは、酒税改正に対応して23年3月からブランドを少しだけ変えて「発泡酒」として展開している。
キリンは20年、21年と連覇。ところが、22年には再びアサヒが首位に立つ(アサヒが公表しないので推定だが)。
コロナ禍が収束に向かい、アサヒが得意とする業務用市場が復活していったことが大きかった。一方、キリンは悲劇に見舞われる。21年9月、社長として首位奪還を主導した布施が61歳の若さで急逝。ちょうどミャンマーのビール事業撤退の後処理と時期が重なり、後任社長をなかなか決められず、22年商戦の体制づくりが遅れてしまったのだ。
22年に続き、23年、24年と、アサヒは3連覇。キリンが25年から公表をやめたのは、「もう、アサヒに勝てない」と、自らタオルを投げたからではないのか(キリンは否定)。
販売数量という絶対値の公表をやめたため、キリンの事業会社のなかには、販売目標を「前年比」、つまりは相対値で公表する会社もある。
鈴木修は言った。
「率、パーセントという相対値は、数字を隠してしまう。見えなくしてしまう。数字が隠れると、実体も隠れていく。すると、人の根底にある向上心や意欲にも、マイナスの影響を与えていく。
だから、ビジネスの精度を高めるには、数字は『絶対値』でなければならない」
内向きの数字と消費者が知りたい数字
ビール業界にとって最大の懸念は、市場の縮小に歯止めがかからないことだ。サントリーとサッポロビールは、販売数量を真摯に公表し続けている。上位2社が数字を開示しないのであくまでも推計ではあるが、2025年のビール4社の販売数量は合計で3億1356万箱(1箱は大瓶20本=12.66Lリットル)から3億1029万箱。前年比では4%減から5%減と見られる。
発泡酒を含むビール類市場の最盛期は1994年の5億6785万箱(課税される出荷量の4社合計)だった。ほぼ30年の間に約4割5分も市場は縮小しているのだ。
しかも2025年秋、アサヒはサイバー攻撃に見舞われる。アサヒが悪いわけではないが、“不測の事態”の時にこそ、できる限りの情報開示は求められるのではないか。情報開示の基本は数字であり、数字はわかりやすい絶対値であるべきだ。
取引先や株主といったステイクホルダー(利害関係者)をはじめ、一般の消費者から、攻撃を受けた現状についての理解は得やすくなるからだ。
そもそも、「過度のシェア競争をさけるため」とは、メーカーにとっては内向きの理由ではある。消費者にとっては、関係ない。むしろ、「どこの会社が好調なのか」は購買動機の一つにもなる。
ただし、アサヒが1987年に発売した「スーパードライ」が大ヒットして以降、ビール戦争が勃発。取引環境は乱れた過去はある。
90年代後半から2001年にかけては、メーカーから流通への“押し込み販売”が横行。消費税が10%になった19年10月からも、翌20年10月の酒税改正(ビールの税額が下がり、第3のビールが上がる)を控え、飲食店へのメーカーの協賛金合戦が演じられた。

