1つの到達点になった「白州18年」
それを物語るエピソードを聞いた。ブレンダー室配属初日、輿石さんを待っていたのは、一種異様な光景だったという。
「テーブルの上に並んだグラスを、先輩たちが黙って順に香りをみて、口に含んでいく。違うと感じたグラスは、少しだけ前に押し出す。それだけなんです」
言葉のないやり取りに、戸惑った。とんでもないところに来てしまった。自分に務まる仕事なのかと、不安がよぎった。
「わからないことは、聞くしかない。理由を教えてもらい、もう一度、原酒の香りをみて、口にふくんで、香味を確かめる。それをくり返しました」
ひたすら飲んで、利く。「原酒の使い方」や「ブレンドの仕方」を先輩から学ぶまでには、さらに数年の月日が経っていた。
「ウイスキーにおける原酒の“構成”を教わるんです。たとえば、スパニッシュオークの原酒をこんなふうにブレンドしたら、より『白州』らしくなりますよ、というレシピです」
それを自分の舌で確かめ新たな味を探すなか、1つの到達点になったのが、前述の「白州18年」だった。
「目指したのは、古い原酒の『枯れた感じ』です。『白州12年』の特徴はスモーキーで、フルーツのような甘い香りがするんですね。ならば『18年』には、しっかりとした熟成感を加えよう、と。フルーツが、ドライフルーツになるようなイメージです」
「白州18年」は、約3年かけて完成させた。2010年、ブレンダー室の主席ブレンダーとなる。「白州25年」を続いて担当。そして、サントリーウイスキーのブレンデッド最高峰「響」を任される。
「正直、緊張しました。社のブランドを背負う重さが、別格でしたから」
ISCで3年連続全部門最高賞を受賞
だが、自分の戦法は変えなかった。“数”だ。「響」を飲みつづけることだ。
「毎日飲むと、輪郭が見えてきます。口に含むと、舌に響くようなキックはない。しかしキレはある。そしてまろやかさと甘さが違う。とろけるような口当たりと華やかな余韻。これが『響』の世界だと、自分の鼻と舌に教え込んだんです」
このブレンドを可能にするのは、やはり原酒のクオリティだという。長期熟成に耐えられる原酒が、先人たちの手によってしっかりと貯蔵されていたのだ。そして、それを評価する飲み手がいる。今や、国内だけではない。愛飲者は海外にも広く及ぶ。
象徴的なブランドが、「白州25年」である。2022年、先述のISCにおいて、ジャパニーズウイスキー部門の最高賞を受賞。しかもこの流れは、単発では終わらない。2023年には「山崎25年」、2024年には「山崎12年」、2025年には「山崎18年」。いずれもISCで、全部門最高賞となる「シュプリーム チャンピオン スピリット」を3年連続受賞。年を追うごとに、輿石さんが手がけるブランドが、その名を呼ばれ続けている。