「血糖値少し高い」はもはや“糖尿病”

血糖値の指標の評価には「境界型」というものがあります。健診で「血糖値が少し高めですね」「そろそろ真面目に糖尿病予防のことを考えたほうがいいですよ」と言われるのがこのタイプです。多くの人は深刻に受け止めず、「まだ大丈夫」と考えてしまいがちですが、むしろ「すでに糖尿病が始まっている」と受け止めるべきです。

境界型とは、空腹時血糖値が110~125mg/dL、ヘモグロビンA1cが6.0~6.4%、食後2時間値が140~199mg/dLの状態を指します。最近では空腹時血糖値が100~109mg/dLを「正常高値」(基準に達しておらず、正常値よりも高い値)とし、早めの対策を促す動きも出てきています。

境界型の怖さは、この段階では自覚症状がほとんどないことです。血糖値が少し高めでも日常生活に支障を感じることはほとんどなく、自分が病気の前段階にいることに気づくこともないと思います。

しかし、その頃にはすでに血管や臓器の損傷が進んでいます。実際、境界型の人は心筋梗塞や脳梗塞のリスクが正常な人と比べて高いと報告されていて、腎臓の細い血管にもすでにダメージが始まっていることも多いです。

もしあなたが「糖尿病です」と告げられたときには、すでに病気の後半=レイトステージに入っていると考えたほうがいいでしょう。糖尿病と診断した患者さんから「軽症ですか、重症ですか」と聞かれることがありますが、糖尿病を発症した段階で軽症ということはありません。

“境界型”を放置してはいけない

医療現場でも、境界型への対応が課題となっています。

坂本昌也『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)
坂本昌也『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)

糖尿病と診断できないため薬物治療はあまり行われませんが、放置すれば確実に糖尿病が増えていきます。年間で5~10%が糖尿病へ移行するとされ、5年、10年のスパンで見ればもっと多くの境界型が糖尿病へ進んでいるのが現状です。

糖尿病型と境界型の線引きの数値が決められたのは、もう50年以上前のことです。この考え方自体が過渡期を迎えているのかもしれません。

境界型を「まだ糖尿病ではないから安心」ととらえるか、「すでに糖尿病の入り口に立っている」ととらえるかの違いが、将来を大きく左右します。

糖尿病を発症する前に気づいて対策することこそが、合併症を防ぎ、長く健康でいるための最善策。すでにアメリカ糖尿病学会では、境界型を「放置してよい段階」ではなく、糖尿病や心血管疾患を防ぐための重要な介入ポイントとして重視しています。

(参考文献)
・『IDF 糖尿病アトラス 第10版』/国際糖尿病連合
Over 250 million people worldwide unaware they have diabetes, according to new IDF research/国際糖尿病連合(2025 年4 月7 日)
JACC Heart Fail. 2021 Aug;9(8):594-603.
Diabetes Obes Metab. 2020 Sep;22(9):1607-1618.
PLoS One. 2024 Nov 13;19(11):e0310964.
BMJ. 2020 Jul 15:370:m2297.
Harvard health publishing Diseases & Conditions Prediabetes June 25, 2025
Diabetes Care. 2025 Jan 1;48(1 Suppl 1):S14-S26.

坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長

国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。