夫の反応は…

夫には、入学を決めてから「あなたの仕事の邪魔にならないようにするから」と協力を頼んだ。授業がある日だけは10時には家に帰るようにしてほしい、それまではシッターさんを手配しておくし、学費とシッター代は全部自分が出すからと。迷惑をかけまいと考え抜いた末の提案だったが、夫の返事は胸をえぐるものだった。

「いいけどさ、支店の管理職にMBAはToo Muchじゃない?」

3年間通ったグロービスの卒業式にて
3年間通ったグロービスの卒業式にて(写真提供=岡野さん)

これを岡野さんは「そりゃそうだね、でも行くから」とサラッと受け流した。最低限の協力が得られれば大成功で、応援してほしいなんて高望みはしない。それほど、家族には理解されないだろうと思っていたのだ。

「実は、実母にはいまだにMBAをとったことを言っていないんです。母は昭和のいいお母さん像そのままの人で、私が働いているだけで『子どもがかわいそうじゃない?』って言うぐらい。孫を心配しての、100%善意からの言葉なんですけど、だからこそキャリアのために学校に行くなんて言えなくて。そのとき返ってくる母からの言葉に、自分が折れてしまうのがわかっていたので言いませんでした」

「悪意なき夫」に返した一言

さまざまな葛藤を胸に秘めたままの入学だったが、学びそのものは楽しく、3年後に晴れてMBAを取得。この間、仕事のほうでは再び本社の営業企画部門に異動して研修のリーダーとなり、海外出張も増え始めていた。ここで、またしても夫から胸をえぐる言葉をかけられる。

「キャリアのために家族が犠牲になっているんじゃないか」。このとき岡野さんはすぐには言い返さず、しばらく沈黙したという。家庭を壊すような大ゲンカを避けるための、自分なりのコミュニケーション術だった。

「そこで私が怒ると、売り言葉に買い言葉で大ゲンカになっちゃう。だからそのときも、しばらく黙ってから冷静に『わかるけどさ、でもやりたいんだよね』って言いました」