制限があったから営業スタイルを変えた
「家事育児も、僕のほうが稼いでいるのに半分やるのは納得できないと。確かに当時は夫の年収のほうが上だったので、何も言い返せませんでした」
ところが、こうした無理解と裁量労働の環境が思わぬ効果を生む。家事育児の時間を捻出するため「どうしたら最短で成果を出せるか」を真剣に考えるようになり、結果的に仕事の効率が上がったのだ。営業スタイルも、ひたすら得意先に通う“がんばりの押しつけ”から優先順位のメリハリをつけた成果重視に変えたことで業績は大きく伸び、ボーナスが夫を超えた。
34歳で第2子を出産すると、夫にも変化が起きた。岡野さんが産後のワンオペを見越して、ドゥーラ(産後ケアの専門家)や家事代行ヘルパーを手配してから退院したところ、夫は専門の人が来るから自分は何もしなくていいのだと勘違い。出産などなかったかのようにマイペースに過ごす夫を前に、岡野さんは産後のメンタル不調もあってついに泣き出してしまった。
これでやっとつらい気持ちが伝わったのか、夫の家事育児へのスタンスが徐々に変わり始めた。「手伝うよ」の範囲がやや広がった程度ではあったが、おかげで両立は少しだけ楽になったという。
2児を育てながらMBA取得の深い理由
第2子の出産から2年後、岡野さんはMBA(経営学修士)をとるためグロービス経営大学院に入学する。この先もう本社に呼び戻されることはないだろう、だったらここで管理職を目指そう──。そう考えた末の決断だった。
管理職になるのにMBAは必須ではない。にもかかわらず取得を目指したのは、転勤できないという事情があったからだ。当時、営業管理職には全国転勤が当然とされていた。
「家族のことを思うと転勤はできない。それでも管理職候補に入るには、他の候補者にはない付加価値が必要だと思いました。その私なりの答えが『学び』だったんです」
グロービスには、まだ子どもがいない時期にも挑戦を考えたことがあった。そのときは会社の学費補助制度に応募したが通らず、自分は会社が投資してもいいと思える人材ではないのだと痛感。そこで今回は、補助制度への応募はおろか社内の誰にも言わないまま入学した。
「育児中で毎日早めに仕事を切り上げているのに、そのうえ学校に通うなんて言ったら仕事仲間として信頼してもらえないだろうと思ったんです。学校に通うくらいならもっとやることがあると言われるかもしれない。それに、入学すれば必ず成長できるという自信もなかった」