キヤノンマーケティングジャパン 
会長 村瀬治男氏

31歳で最初にアメリカに赴任したときは、まさかそれから28年間も駐在が続くとは思ってもいませんでした。

そもそも私は英語が得意だったわけではなく、むしろ社会人になってからはこれ幸いと、英語から目をそらすように生きてきたといっても過言ではありません。

ただ、苦手なりに中学、高校ではよく勉強しました。私の通った学校(私立栄光学園)が、とりわけ英語に力を入れていたからです。たしか高校3年生のときは、1週間の全授業時間が33時間、そのうち11時間が英語だったと記憶しています。

いま思えばその6年間である程度基礎ができていたから、後に必要にかられて英語に取り組むようになったとき、なんとか対応することができたのでしょう。よく日本の学校英語は実践では役に立たないといわれますが、私はそんなことは全くないと思います。

たとえ勉強する目的が受験であったとしても、基本的な単語や文法は身についているはずです。だから、曲がりなりにも受験勉強で英語に取り組んだという人は、英語の土台はある程度できていると思って間違いありません。

海外に行くとよくわかりますが、英語圏以外の出身者には、平気な顔でめちゃくちゃな文法の英語を話す人がけっこういます。その点日本人は英語が不得意といいながら、二重否定の意味だってわかりますからね。

といってもいざ実践となると、やはり学校で学んだ英語だけでは不十分です。私も赴任当初はネーティブの話す英語が聴き取れず、電話が鳴るたびに恐怖でからだを固くしていました。

しかし、これではビジネスになりません。そこで私が行ったのは、ラジオの英語を徹底的に聴くことでした。昼間に車で移動するときはもちろん、仕事を終えて家に帰ってからも、ずっとニュースの専門チャンネルを流しっぱなしにしておくのです。そうすると同じニュースが何度も繰り返されるので、最初はわからなくても2度、3度と聴いていると、だんだん耳が慣れてくる。そうすると少しずつわかるようになってくるのです。

それでも電話が怖くなくなるまでは、2年近くかかりました。もっとも、LとRの聴き分けは、いまだに完璧とはいえませんが。

話すときは発音よりも、大事なのはアクセントの位置です。たとえば「トロント」を日本風に平板に発音しても絶対に伝わりません。Rの次にあるOにアクセントを置き、最後のTは聞こえないくらい弱く言うのが正解。アクセントの重要性に気づいてからは、俄然話が伝わりやすくなりました。

それから、話す順序も大切です。日本語のように長々と前置きをしてからおもむろに本題に入るのではなく、結論を先に言うというのが英語の原則です。

また、英語が母語でない人が長い文章を組み立てようとすると、途中で何を言いたかったのか自分でもよくわからなくなる悲劇が往々にして起きる。

そうならないためには、話を短いセンテンスに分けて、できるだけ簡潔な表現を心掛けること。さらに、「2」を「1+1」や「3-1」のように、ひとつのことをいろいろな表現で繰り返し説明すると、誤解や間違いを防ぐことができます。

しかしながら、このようなことは頭でわかっているだけではダメ。できるようになるには慣れが必要です。それには、海外の映画やテレビドラマを字幕に頼らず視聴するといったトレーニングももちろん有効ですが、なんといっても英語を話さなければならない環境に自分を追い込むのが最も早道だといえます。

ただし、いまは私たちの若かったころと違い、海外に行ったら自動的に日本語から遮断されるということはありません。インターネットの発達でどこにいても日本のメディアに接することができるし、メールで日本との通信も簡単にできます。つまり、英語を習得するには、昔以上に強い意志が必要だということです。

時間がないときでもとにかく読む時間は確保すること。私は「TIME」を斜め読みでも読むようにしています。

※すべて雑誌掲載当時

キヤノンマーケティングジャパン会長 村瀬治男
1939年、神奈川県生まれ。63年キヤノンカメラ(現キヤノン)入社。2009年より現職。