“女のプロ”川崎貴子さんと“男性学”が専門の田中俊之さんの対談第4回。未曽有の高齢化社会が到来し、少子化が進むこれからの日本では、社会の変化に備えて、男女ともに働き方を変えることが必須になっていきます。世の中の“常識”を変えるためにはどうしたらいいか? 2人の答えは……。

仕事と家庭、どちらも大事。そう考え、両立する女性が増えています。折しも世は「女性活躍推進」の流れもあって、ダイバーシティについて本腰を入れる企業が増えているのも事実。しかし実際にはなかなか事態が進まないのはなぜなのか? どうすれば男性も女性も共に幸せに生きられるのか? 女性専門の人材コンサルティング会社ジョヤンテ社長で”女のプロ”の異名を取る川崎貴子さんと、「男性学」を専門とし、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』などの著書がある武蔵大学助教の田中俊之さんの対談を掲載します。(本文敬称略)

ダイバーシティは男性にこそ考えてもらわないと意味がない

――今「女性活躍」と言われている話はたまたまそういう名で呼ばれているだけであって、これからは男女ともにダイバーシティの問題が重要になってくる。そういう意味でも男性は育休を取るべき……というお話でした(関連記事:上司をおだてることは、会社の不利益である)。若い男性がそういったことへの当事者意識を持つためには、何をしたらいいんでしょうか。

【武蔵野大学 社会学博士 田中俊之(以下、田中)】そうは言っても男性側にしてみると、当事者意識を持ちようがない、という問題もあります。急に男性の肩を持つわけではないんですが……だってそんなこと、これまで世の中に起こったことがないんですから。大変残念なことですが、当事者意識を持つにはその事態に直面するしかない。その時にならないと分からない人がほとんどだと思います。

【ジョヤンテ社長 川崎貴子(以下、川崎)】日本は世界で一番最初に、極端な高齢化社会を迎えるわけじゃないですか。おまけに未曾有の未婚率の高さになり、少子化も進むわけですよね。本当にモデルケースがない。未知のことに対して危機感を覚えろといってもさすがに無理な話かもしれません。ただ、予測を立てて、自分たちが作れるうちに組織を作っておくっていう危機感は、トップや経営陣、管理職にないと絶対厳しいと思うんです。

ワークライフバランスは女性だけの問題ではない

――経営陣にその意識を持ってもらうのは、若い男性よりさらに難しいのではないでしょうか。「PRESIDENT WOMAN」ではよくダイバーシティについての記事を掲載していますが、実際に当事者として働いている女性がそういう記事を読んだところで、がんばりますとしか言いようがなく、事態は変わらない。本当にそういう話題を知って、真剣に考えてほしいのは経営層にいる人たちなんです。そういう意味で、「PRESIDENT WOMAN」よりもむしろ、「PRESIDENT」本誌の読者にそういう記事を読んでほしいと思うくらいです。オンライン版でも事情は同じです。でも、経営層にいる年配の男性は本質的にこういう話題に興味がない……どうしたら危機感を持ってもらえるのでしょうか。男性も当事者になるのを待つしかないのでしょうか。

【田中】これはすごく難しい問題です。たとえば男性、大学生でもいいですけど、将来どうするか? と考えると、ほとんどの人は「正社員として働く」と思っているわけです。正社員として40年間、定年退職まで働くと思っていますよね。なぜそう思うのかというと、やっぱり結婚したら自分が中心になって家族を養わなきゃいけないと考えてるからなんです。これは、男性だけがそう思っているわけではなくて、女性からもある程度そのような期待があるし、そもそも親がそのように期待をしてるわけですよね。ここがデフォルトであることを変えない限り、変わらない。

武蔵大学助教 田中俊之さん

つまり、男性はフルタイムで40年働くものだとみんなが固く信じている。だから、今は時短勤務や育休がイレギュラーなことだと思われているわけです。社会人の常識として、「何でも仕事に支障がない範囲でやってね」という条件がありますよね。例えば飲みに行くにしても、「たくさん飲んでいいよ、ただし次の日の仕事に支障がでない範囲で」とみんな思っているわけです。それは飲みに行くだけでなくて、育児とか介護とかでも一緒なんですよ。「男性が育児や介護をしてもいいけど、仕事に支障が出ない範囲でね」と基本的には思っている。

ワークライフバランスとは「生活と仕事のバランス」のはずですが、男性の標準的なスタイルは、仕事があくまで中心にあって、その脇に生活がある、という状況なんですね。周りからもそれを期待される。そこを切り崩さない限り、どうにもならないことなんです。

だからそういう意味でいえば、先ほどダメになっていく男性の話がありましたけど(関連記事:「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?)、男性が無職でも人は不安になっちゃいけないんですよ。男が無職になると、どうしても不安になるじゃないですか。どうしちゃったんだろううちの息子、とか思いますよね。テレビ見てても「犯人は40歳無職の男性です」って言われたとたん「ほら無職だヤバい!」ってみんな思うじゃないですか。

中年フリーターはなぜ男性だけが問題視されるのか

――確かに女性と違って、男性が無職だと聞くと「それは厳しい」と思われがちですね。

【田中】今、中年フリーターって言葉が出てきて問題になってますけど、そう聞いてみんながイメージしているのは男だと思うんです。でもパート労働者は女性のほうが多いわけだから、中年フリーターも、実は女性のほうが多い。ところがそれは問題にならず、男の中年フリーターだけが問題視される。男は性別で人生の初期設定がカチッと決まっちゃってて、それはもうフィックスですよと。それではどうにもならないということなんだとぼくは思います。

【川崎】本当にその通りだと私も思っていて……。まず女性側が社会の中で、男性の多様性をもっと認めないと、世の中が閉塞するばかりなんですよね。

来年、うちで婚活サイトをオープンさせるんです。そこでは、出張も多いし海外に行くこともあるし、やることもいっぱいあるし、昇進試験も受けているし、でも結婚したいし!……というキャリア女性向けに、フリーランスとか、家で仕事ができますとか、「海外出張? ついていきます!」みたいなフレキシブルな男性ばかり集めているんです。そうすると、いいマッチングができるなと思って。

女性たちよ、管理職になれ!

――その組み合わせは『ヒモザイル』を思い出しますね(関連記事:東村アキコ『ヒモザイル』は何がアウトだったのか)。でも、バリバリ働きたい女性と、フレキシブルな働き方ができる男性は相性がいいと私も思います。ますますバリバリ働けるようになる。

【川崎】働き方を変える、女性も男性も働きやすい世の中をつくるにはどうしたらいいかというと、介護よりも前に、育児や出産のリミットがある女性たちが管理職になるしかないんですよ。会社のルールメーカーとして、会社のルールを作る会議に出席できる管理職に、女性たちがなるしかないんです。「また女性活用かよ」とか「女性管理職比率かよ」とか、こういう話がいろいろ揶揄(やゆ)されがちなのは知ってますけど、「いいから今は立候補して管理職になれ!」って。で、もう追随を許さないくらい出世しなさい。会社のルールを作れるところにいきなさい。それは男性のためにもなるからと。

ジョヤンテ社長 川崎貴子さん

「女性管理職比率を何パーセント」などと数字を決めるのは野暮な話ですけど、でもそれを一時的には推し進めなくてはいけないくらい、日本は異常なくらい女性管理職比率が少なすぎるんです。

しかも、女性自身も昇進のモチベーションが少ない。「あんな働き方をしてる部長に私はなれない」とか。でも、イヤだったら管理職になって現状を変えればいいんですよ。でも日本の女性は良妻賢母思想が入ってるんで、「私はパイオニアにはなりたくない」とか、「その会社で初めての部長にもなりたくない」とか言います。

でもね、部長で失敗したって命取られるわけじゃないのよ? 降格するだけでしょう。だから、アベノミクスだ女性活躍推進だって言ってる今がチャンスだから、ぜひ出世して、全員のために、何よりも自分のために、立候補してほしいって、解決方法はそれしかないなと思ってやってます。

意思決定の場に女性が入ることの重要性

【田中】意志決定の場に女性が入るって、本当に想像以上に大事なことです。だって、男性は残念なんですけど分からないんですよ。

例えば、夫婦別姓とか通称の使用という問題1つとっても、男性は結婚して自分の名字が変わるなんていう事態がそもそも想像が付きません。日本ではほぼ100%夫の姓に合わせるのですから。だからそのことによる不利益とか、心理的な負担とか、親の願いとか――親って子供の名前に願いをかけて、画数まで考えてつけるわけじゃないですか。あと下の名前と上の名字のバランスも考えますよね。それが変わってしまうって大ごとですよ。でも、そういう不利益がイメージできない。もしあっても、「男性が婿入りするなんて珍しいですね」みたいな扱いで終わってしまう。

【川崎】うちは夫に入ってもらいましたが、ブーブー言ってました(苦笑)

【上】『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』川崎貴子(ベストセラーズ)【下】『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』田中俊之(KADOKAWA)

【田中】そうですよね。でも多くの女性はブーブー言わない。そういうものだと思っているから。「気付かない」ということと、「不平等がない」ということは全然違うのに、「問題ないんだから平等でしょう? 今の社会は」と男は思っちゃうんです。だから、矛盾を体験している方が意志決定する場に入らないと、そういう視点が入らないんですよね。だから、川崎さんがおっしゃったことはとても重要だと思いますね。

【川崎】女性管理職がルールメーカーになったら、夜8時からの定例会議なんて絶対やりませんからね。子育て中のお母さんたちが管理職で入っていたら「え、じゃあSkypeでよくない?」ってなっていくと思うんですよね。「その時間に話し合わなきゃいけないんだったら、これでよくない?」と、新しい発想がどんどん生まれてくるはず。

【田中】そうですね。今までなかったイレギュラーなものがそこに入ってくると、そこで正当だったルールが揺さぶられていくと思いますね。異質なものが入ってくるというのはすごく大事だと思います。

【川崎】育休をとってる男性とか、育休明けの男性とかね。

【田中】まさにそうですよね。

●“女のプロ”川崎貴子ד男性学”田中俊之 対談記事一覧
第1回 結婚を不安視する男、幻想から離れられない女
http://woman.president.jp/articles/-/866
第2回  「結婚はコスパが悪い」という男性が結婚を意識するのはどんなとき?
http://woman.president.jp/articles/-/893
第3回 上司をおだてることは、会社の不利益である
http://woman.president.jp/articles/-/896
第4回 女性たちよ、管理職になれ!
http://woman.president.jp/articles/-/903
第5回 結婚したいのにできない人に必要なこと
http://woman.president.jp/articles/-/925
第6回 「減点法」コミュニケーションの行く先は、破局しかない
http://woman.president.jp/articles/-/926
第7回 男はつらいよ~男は「競争」、女は「協調」
http://woman.president.jp/articles/-/927
最終回 「夫が家事を主体的にやってくれない!」となぜ怒ってはいけないのか
http://woman.president.jp/articles/-/928
川崎貴子
1997年に女性に特化した人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。経営者歴18年。女性の裏と表を知り尽くし、人生相談にのりフォローしてきた女性は1万人以上。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚、そして8歳年下のダンサーと2008年に再婚を経験、「女のプロ」の異名を取る。9歳と2歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)など。
田中俊之
武蔵大学社会学部助教、博士(社会学)。1975年生まれ。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。2014年度武蔵大学学生授業アンケートによる授業評価ナンバー1教員。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめ、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍中。著書に、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)など。