相談を受けたFPが提案した「相続時精算課税」での贈与

雅彦さんから一通りお話を伺った筆者は、次のような提案をすることにしました。

「まずはお母様の預貯金の一部を雅彦さんに一括で生前贈与することも検討してみましょう。贈与したお金の名義は雅彦様になるので、仮にお母様に成年後見人がついても雅彦さんの生活費に充てることができます」

すると雅彦さんは疑問を口にしました。

「現金を一括で贈与するとなると、贈与税がかなりかかるのではないでしょうか?」

「確かに通常の贈与であればかなりの贈与税がかかってしまいます。そこで今回検討する贈与は『相続時精算課税』のほうになります。ざっくり言うと、1年間に一括で2610万円までの贈与ならその時に贈与税はかからず、相続時に税金精算をするといった制度です。条件や概要は次の通りです」

条件 贈与者(今回のケースでは母親)が贈与の年の1月1日時点で60歳以上であること。受贈者(今回のケースでは雅彦さん)が贈与の年の1月1日時点で18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人または孫であること。
※母親も雅彦さんも上記の条件をクリアできるので、相続時精算課税を利用することができます。

概要 令和6(2024)年1月1日以降に相続時精算課税を選択して贈与を受けた場合、1年間のうち贈与により取得した財産の価額から110万円の基礎控除額を控除します。110万円を超える金額の贈与を受けた場合、さらに累計で2500万円までの特別控除額が控除できます。これらの控除をした後に残額があれば、その残額に20%の税率を乗じた贈与税を支払います。

これを言い換えると「1年間のうちに母親から現金を一括で2610万円まで贈与を受けても、その時に贈与税を支払う必要はない」ということになります。

ただし、相続時精算課税を利用して受けた贈与財産は、相続時に相続財産として加算され税金精算することになっています。

そこまで確認したところ、雅彦さんはさらに質問をしてきました。

「相続時精算課税を利用した場合、自分は相続税がかかることはないのでしょうか?」

「雅彦さんの場合、相続税に関してはそこまで心配しなくても大丈夫だと思います。なぜなら相続財産からは基礎控除額を差し引くことができるからです。相続人は雅彦さんお一人なので基礎控除額は3600万円になります。つまり3600万円までの財産を相続するのであれば相続税はかからないということです。仮に相続時精算課税で2610万円の贈与を受けていても3600万円の基礎控除額の範囲内に収まります」

「自宅の土地も相続することになるのですが大丈夫でしょうか?」

「相続したご自宅の土地は小規模宅地等の特例が使えます。330平方メートルを限度として評価額を80%減額してもらえます。仮に土地の相続税評価額が4500万円だった場合、900万円の評価額にしてくれるのです。以上のことから、相続税に関してはそこまで不安になる必要もないでしょう」

「相続ではいろいろな制度が使えるのですね。でも……」