「AI=通信でだめになる」という認識のウソ

まず、自動運転の仕組みをおさらいしたい。

人が運転するとき、ドライバーの目や耳を使って進行方向の信号や道路標識、後方も含めて車両の周辺状況を確認し、ブレーキやアクセルを踏んだり、ハンドルを回したりしながら車を走らせる。周辺状況を「認知」し、そのうえで「判断」し、手足を使って車を「制御」しているのだ。

一方自動運転になると、車の前方や後方などに設置されたレーザーやミリ波、超音波などを使ったセンサーとカメラを使って周辺の状況を「認識」し、人間の脳にあたるAIが進む、止まる、曲がるを「判断」し、その判断をデジタル情報として「制御」システムに送り、車を安全に走らせることになる。「判断」するAIコンピューターはどこにあるかというと現状では車に搭載されている。

SFのようにクラウド上にすごいAIが存在し、そこで地上の車を制御する、というイメージがあるのかもしれないが、今、実証実験が進められている自動運転車は違う。車載センサーが時々刻々と集める情報をクラウドに上げ、そこのAIが判断し、通信で車に指示をし、制御するという仕組みではない。それでは素早い判断が必要な車の安全は守れないからだ。自動運転をつかさどる主な判断は車体側でしているのだ。

つまり、AIがクラウドではなく、車に載っている限り、たとえ通信障害が起きたとしても安全上大きな問題はない。3社の大手自動車メーカーの自動運転開発者らにも確認したが、「その通り。なぜテレビで通信障害が即座に自動運転の危険性につながるかのようなコメントが出てくるのか分かりません」と口をそろえた。

“コネクティッドサービス”は使えなくなったが…

どうしてあのような発言が出てきたのか。コメンテーターらの名誉のために少し考えてみた。

今回の通信障害で、確かに車に関するトラブルはあった。車の未来を占う言葉に「CASE(コネクティッド・自動化・シェアリング・電動化)」があるが、そのC、「コネクティッドサービス」が使えなくなったのだ。

代表的なのはトヨタ自動車のレクサスのオーナー向けサービスで、これも通信障害でサービスが止まった。影響を受けたのは周辺の道路渋滞などのリアルタイム情報を得ながら最適ルートを探したり、365日24時間対応のコンシェルジュにドライバーがホテル予約を頼んだりするサービスだ。

そこから何らかの未来を予測したのかもしれない。しかし、このようなサービスは「命に関わる」というようなものではなく、単に「利便性」の問題にすぎない。

自動運転が普及し、スマホで自動運転車を自宅に呼び、病院に行くといった配車サービスが10年ほどたてば広まるかもしれない。公共交通機関が減った地方での移動弱者を救うサービスだが、このようなサービスは確かに通信障害でストップする。もしかすると、配車が間に合わないなど、命に関わる事態を招くこともあるかもしれない。しかし、これもまた「命」に直結するというよりは、「不便」の延長線上に想定される問題にすぎない。