ネット通販の棺はふたが反り返っていることも
近藤氏によると、棺そのものは安いもので十分に使えるという。
「アマゾンの2万1000円の棺でいけると思いますよ。ただ、DIYで自分で棺を作ったりしたら、安置所や火葬場の冷蔵庫だけでなく、火葬炉に入らない可能性が出てくる。葬儀屋さんに卸している棺桶屋さんは、火葬場に適したサイズを納めている。うちでは、棺代はプランの中に入っていますが、自前で棺を用意したい場合、既製品で葬儀屋さんに卸す前提のものを買ってきてもらえれば、安くても問題なく使えると思います」
ただ、ネット通販の場合、不良品が届いた場合のリスクなども考慮する必要があるという。
「僕も格安の棺を仕入れているからわかるのですが、中国製の安い合板だと、無垢じゃないからふたが反り返ってることもある。安い棺はふたがやっかいなんです。故人が亡くなってから棺をアマゾンで注文すると、『明日火葬なのに、ふたが閉じなくて、どうすんのよ』となる場合も出てくれかもしれません。私たちは棺を在庫してるから、問屋に返品交換していただいたり、いったんふただけ取り換えておくということもできるのでいいですが」
焼いた後は、骨壺をどうするのかという問題も発生する。
「うちの場合は、骨壺の代金もプランに入っているのですが、自分で火葬しようとした場合、火葬場に骨壺を自分で持ち込むことになると思います。一部の火葬場では、骨壺を販売しているので、それを買えば大丈夫ですが、自分で持ってきた骨壺だと、お骨が入りきらなくなる可能性もある。骨壺の大きさも男性なら何寸とか、それぞれの火葬場で決められているルールがあるんです」
葬儀の形は「簡略化」「低料金化」しつつある
近藤氏の話を聞いていると、棺だけネットで買っても、遺体の搬送や保存から、行政手続きなど、死後のもろもろは恐ろしく煩雑で気がめいってくることがわかった。ただでさえ身内の死で気持ちが落ち込んでいるところに、ここまでやるのは、とてつもない労力がかかる。
しかし、だからといって葬儀社のいいなりとなり、高額な葬儀費用は支払いたくないというジレンマもある。
そこで必要となるのは、まず葬送の儀礼を省くことに理解があり、死後のあれこれを淡々と遂行してくれる近藤氏のようなニュータイプの業者の存在ではないだろうか。
葬祭費用は高度経済成長期から右肩上がりで、バブル期は数百万円を葬儀にかけるのは当たり前だった。しかし、時代は瞬く間に変化し、葬儀の形はその潮流として限りなく簡略化、低料金化しつつある。一般的な葬儀業者なら嫌がるこの流れを近藤氏は歓迎している。
「昔と違って利幅は低くなるけど、逆に件数を増やせばいい。かつての大きな葬儀にしがみついている葬儀社はまだ多くて、僕みたいな考えはまだ少ないですが、だんだん時代の変化とともに増えていくでしょう。僕はお客さんが望んでもいないのに、祭壇や高価な棺などを売りつけるのがいいとは思いません。豪華にも簡素にもできるという選択肢を知ってもらうのがわれわれの仕事だと思うんです」