――新川さんのようにタバコを吸わない人が吸う人と空間を分け合い、同じ店内で快適に時間を過ごす。分煙という工夫でそういう空間をつくれたら、多くのお客さんにとっていいことだと?
【新川】そうですね。私も飲食業の経営者として、お客様の満足を優先したいという気持ちを持っています。タバコを吸う方であれ吸わない方であれ、私たちの店で料理やお酒を楽しんでいってほしいと心から願っています。
ただ、僕はそれだけではないと思うんです。こういう問題では、お客様の満足以上に、従業員がどう感じるかということのほうが大事です。
私たちのスタッフは、お客様と空間を共有して働いています。店内でタバコを許せば、受動喫煙の害を受けるのは彼らです。だから、ある店で喫煙を認めるかどうかを決めるときには、最初に店長以下スタッフの声を十分に聞くようにしています。いくらお客様のためでも、スタッフが嫌がるならその店はもちろん禁煙にします。
――それは抜け落ちてはいけない重要な視点ですね。会社には従業員の受動喫煙を防止する義務があります。また、受動喫煙防止の観点から、世界的に喫煙に対してさらに規制が強まるのは確実です。今後、飲食店とタバコとの共存はどうなっていくと考えますか。
【新川】最近、フィリピンに滞在してみて驚いたのですが、フィリピンのマニラ首都圏では2年前から、公共施設内や路上を全面禁煙とする法律が施行されているのです。違反すれば高額の罰金が科されます。
フィリピンの方には失礼ですが、先進国ほどには公衆衛生にこだわりを持たないと見られていた発展途上国や新興国でも、禁煙化の流れは着実に進んでいます。それどころか、フィリピンはいまの日本よりも厳格です。こうした例を目の当たりにすると、公共施設や飲食店での禁煙化は世界中で今後も進んでいくに違いないと思います。
その一方、欧米の飲食店を視察に回っていると、タバコを吸う人と吸わない人がごく自然に、うまい具合に共存している光景を見かけます。とくにお酒を出すレストランやバーでは、繁盛しているお店ほど、両者がうまく住み分けているように感じます。
たとえばスペインのレストランでは、屋外の席で男性客がタバコをふかしている横を、子連れの女性客がとくに気にするふうも見せずに通り過ぎ、エントランスを入って店内の禁煙席へ向かいます。日本でも同じように、あるバランスで共存できるのではないでしょうか。
1963年生まれ。山形県から実家の事業拡大にともない福島県福島市へ移り、82年、福島商業高校卒業。新宿東京会館(現ダイナック)を経て84年、長谷川実業(現グローバル・ダイニング)に入社。88年、取締役。同社のナンバー2として株式上場など飛躍に貢献する。2005年から現職。