「才能」を育て、組み合わせる

重三郎が多くの縁を生み出せたのは、どんな相手とも真正面から向き合ったからです。

作者や絵師は個性派揃いで、中には扱いづらい人もいましたが、「語らいは本屋の大事な柱」をモットーに、あるときは叱咤し、あるときはなだめながら、相手の才能を高みへと引き上げていきました。

確かな画才を持ちながら、理想の絵を描けず伸び悩んでいた喜多川歌麿には、こんな言葉で激励します。

「蔦屋重三郎が見込んだのは喜多川歌麿。あんたを日本一の絵師にしてみせる!」

実際に歌麿は才能を開花させ、現在では日本だけでなく、世界にその名を知られる巨匠になったのですから、重三郎の功績は計り知れません。

齋藤孝『座右の一行 ビジネスに効く「古典」の名言』(プレジデント社)
齋藤孝『座右の一行 ビジネスに効く「古典」の名言』(プレジデント社)

重三郎自身は文章を書くのがうまいわけではなく、絵が得意なわけでもなく、狂歌をつくらせても面白くない。自分だけでは何もできないに等しい人物です。

しかし目指すビジョンがあり、その実現に必要な才能を見出して育てる粘り強さがあり、才能同士を組み合わせて傑作を生み出す力がありました。

ビジネスのシーンでも、上司が部下の強みや個性を見抜き、「君たち二人でコンビを組んでみたらどうかな」と結びつければ、面白い仕事をしてくれるかもしれません。

もしプレイヤーとして自分に才能がないと悟ってしまったとしても、縁を大事にして人と人をつなぐ力を磨けば、プロデューサーとして活躍できる可能性は十分あるはずです。