鮮魚店はこの45年ほどで5万店超→1万店弱に

1980年代には全国に5万店以上あった鮮魚店が現在は1万店を割っている。食品スーパーの魚売り場にはマグロやサーモンなどの人気魚種の冷凍品や切り身、刺身ばかりが並ぶ。はっきり言ってつまらない。鮮魚店が多種多様な魚を仕入れて、地域の客をワクワクさせながら食べ方を教える機能が低下しているのだ。世界に誇る日本の魚食文化の危機、とも言える。

不足しがちなたんぱく源を豊富に獲れる魚で補っていた時代はとっくに過ぎ去っている。海水温の上昇などで漁獲量が減った天然の魚よりも養殖魚や可食部の多い肉を選ぶ消費者も多い。四季折々の幸である天然魚を丸ごと味わう楽しさとありがたさを誰かが伝えなければならない。

鎌倉さかなの協同販売所の田島幸子さん(左)と企画・広報担当の狩野真実さん
写真=筆者撮影
鎌倉さかなの協同販売所の田島幸子さん(左)と企画・広報担当の狩野真実さん。狩野さんはすり身揚げの試食中

1枚250円という強気な価格設定でも売れる理由

つい熱く語ってしまったが、マルカマのすり身揚げはこうした店の方針と水産業界の現状を踏まえて作られている。ただし、圧倒的に美味しくなかったら1枚250円では売れない。筆者はマルカマでボランティアスタッフとして働きながら何枚もつまみ食いさせてもらっているが、魚の味をはっきり感じられる味と食感に毎回感動している。なぜこんなに旨いのか。余計なつなぎや添加物を入れていないだけでは納得できない。料理人歴40年のベテラン、松井康さんに企業秘密に触れない範囲で教えてもらおう。

「フードカッターを回し過ぎないことですね。つなぎにもなるミンチの部分と、みじん切りで魚本来の味と食感がわかる部分の両方ができるように工夫しています」

揚げ方も重要だ。このすり身揚げは油が軽く感じられて胃もたれもしない。松井さんによれば、コツは油だけではなく調理用具にあるらしい。

「ドクターフライという最新の調理器を導入しているので、ふっくらと仕上がります。1日の終わりに揚げカスをこして油を補充していますが、油の入れ替えをするのは月1回で済んでいます」

ドクターフライとはフライヤー補助機器の商品名で、電波振動により食材に含まれる水分を安定化する装置。食材から水が出過ぎないために、揚げ物に油が入り過ぎず揚げ油は長持ちする。味も良くなって低カロリーになり、店としてはコストダウンにつながる。飲食店などで導入が進んでいる機器だが、街の鮮魚店で見かけたのは初めてだ。ただし、最新の調理機器でも素材の品質を変えることはできない。料理はあくまでも素材に規定されるのだ。

「サメは脂が多いので入れません。青魚ばかりでもすり身揚げの色が黒くなってしまいます」

淡々と話してくれる松井さん。サクや刺身の他、様々な総菜にも使われた後の「最後の出口」であるすり身揚げだが、商品としての質は守らなければならないのだ。