「アラレちゃん」風の帽子とカツラをかぶり、コント仕立ての地元CMに登場する野田米菓(三重県津市)の代表取締役、野田恵子さん(65)は、あられの味に魅せられて創業1934年のあられ屋後継者・健一さんと結婚。次々と新製品を投入し、同社を人気あられメーカーに成長させた。フリーライターのみつはらまりこさんがリポートする――。(前編/全2回)
野田米菓 代表取締役の野田恵子さん
筆者撮影
野田米菓 代表取締役の野田恵子さん

東京、大阪、奈良…県外からも買い物客が訪れる

2024年11月のとある平日午後。三重県津市の田畑と民家が入り交じった静かな場所に、突如として奈良ナンバーの観光バスが到着した。降りてきた50~60代の団体客、およそ15人が進む先は、野田米菓の直営店。店内に入る客からは、「こんな味のあられ、見たことない」と声が漏れる。その横で人をかき分けるように、大型トラックで乗り付けた作業着姿の男性がレジへ進む。「あられで一杯やるんが楽しみなんや」と満面の笑顔だ。

店内には、創業90年を誇る「田舎あられ」から「うなぎあられ」「津ぎょうざあられ」「薬膳あられ」「伊勢海老あられ」まで、約40種類のあられがひしめき合う。280グラムの大袋は直営店のみの販売で、80~100グラムは3つで1200円、30~40グラムは5つで1000円という、選ぶ楽しみとお得感も演出する品揃えだ。

「田舎あられが大好きで、いつもは三重県の友人に送ってもらっている」と話す、八王子から来た帰省客
「田舎あられが大好きで、いつもは三重県の友人に送ってもらっている」と話す、八王子から来た帰省客(筆者撮影)

取材の日、お客さんに話しかけてみたところ、八王子ナンバーの帰省客、大阪から訪れた夫婦、地元の常連客など。野田米菓には県境を越えてたくさんの人が集まっていることがわかった。筆者が滞在したわずか1時間で約40人の老若男女が訪れ、誰もがビニール袋いっぱいの商品を抱えて店を後にした。

野田米菓を率いるのは、代表取締役の野田恵子さん(65)。CMでは故・鳥山明さんの名作漫画『Dr.スランプ アラレちゃん』を彷彿させる帽子をかぶり、割烹着に身を包んで愛嬌たっぷりに登場する。

今、「あられを食べたい」と思ったときにあられ屋で購入する人はどのくらいいるだろう。正直に告白すれば、私はスーパーでしかあられを購入したことがない。野田米菓の想像を超える繁盛の秘密には、「やってみたい」という純粋な情熱と好奇心があった。

従業員や地元の経営者仲間からは、「恵子さん」「女将」と呼ばれている。野田米菓CMの一コマ
従業員や地元の経営者仲間からは、「恵子さん」「女将」と呼ばれている。野田米菓CM「家族だんらん編」の一コマ(YouTube「野田米菓チャンネル」より)