
東京、大阪、奈良…県外からも買い物客が訪れる
2024年11月のとある平日午後。三重県津市の田畑と民家が入り交じった静かな場所に、突如として奈良ナンバーの観光バスが到着した。降りてきた50~60代の団体客、およそ15人が進む先は、野田米菓の直営店。店内に入る客からは、「こんな味のあられ、見たことない」と声が漏れる。その横で人をかき分けるように、大型トラックで乗り付けた作業着姿の男性がレジへ進む。「あられで一杯やるんが楽しみなんや」と満面の笑顔だ。
店内には、創業90年を誇る「田舎あられ」から「うなぎあられ」「津ぎょうざあられ」「薬膳あられ」「伊勢海老あられ」まで、約40種類のあられがひしめき合う。280グラムの大袋は直営店のみの販売で、80~100グラムは3つで1200円、30~40グラムは5つで1000円という、選ぶ楽しみとお得感も演出する品揃えだ。

取材の日、お客さんに話しかけてみたところ、八王子ナンバーの帰省客、大阪から訪れた夫婦、地元の常連客など。野田米菓には県境を越えてたくさんの人が集まっていることがわかった。筆者が滞在したわずか1時間で約40人の老若男女が訪れ、誰もがビニール袋いっぱいの商品を抱えて店を後にした。
野田米菓を率いるのは、代表取締役の野田恵子さん(65)。CMでは故・鳥山明さんの名作漫画『Dr.スランプ アラレちゃん』を彷彿させる帽子をかぶり、割烹着に身を包んで愛嬌たっぷりに登場する。
今、「あられを食べたい」と思ったときにあられ屋で購入する人はどのくらいいるだろう。正直に告白すれば、私はスーパーでしかあられを購入したことがない。野田米菓の想像を超える繁盛の秘密には、「やってみたい」という純粋な情熱と好奇心があった。