堅い豆腐が人気を呼んでいる。名づけて「豆腐バー」。開発した東京・西新宿「アサヒコ」の社長・池田未央さんは「自分と同じ思いの消費者は、必ずいると信じている。いつも自分自身がファーストユーザーだという発想で働いてきた」という――。

老舗が生んだ豆腐業界の大ヒット商品

コンビニの食品コーナーに行くと、片手でそのまま食べられる「豆腐バー」という商品が売られている。日本語の商品名の横にはなぜか「TOFFU PROTEIN」のローマ字。「PROTEIN」とはたんぱく質のこと。ダブルの「F」は造語で、コレステロールや環境負荷を「OFF」するという含意で、1本当たりのたんぱく質量も前面に明記されている。

豆腐バーがコンビニで販売されるようになったのは、2020年の冬のことだ。人気商品の「サラダチキン」と似た形態だったからか、衝撃的なデビューというよりは以前から売られていたような既視感があったが、生産が追いつかないほどの人気ぶりで、発売からの累計販売数は実に累計8000万本(2024年12月末時点)。豆腐業界では希な大ヒット商品となっている。

開発したのは豆腐メーカーのアサヒコ。旧社名は朝日食品工業であり、「大山阿夫利豆腐」や「昔あげ」といった、スーパーの豆腐売り場でお馴染みの商品を製造してきた、豆腐業界の老舗である。

朝日食品工業の創業は1972年。埼玉県の行田ぎょうだ市で、業界に先駆けて衛生的な豆腐を大量生産できる工場を建設している(当時の社名は朝日食品)。なぜ、50年以上の歴史を持つ豆腐メーカーが豆腐バーなる“新奇な”豆腐を生み出すに至ったのか。

豆腐バー誕生の背景には、ちょっと風変わりな、ひとりの女性マーケターの奮闘があった。

「豆腐バー」を開発した東京「アサヒコ」社長の池田未央さん
撮影=市来朋久
「豆腐バー」を開発した東京「アサヒコ」社長の池田未央さん

リケジョが製菓会社を選んだ動機

東京農大を卒業したひとりの“リケジョ”が、関西に本社を置くある食品メーカーに就職をしたのは1997年のことだった。

大学の林学科で「キノコの生理活性成分」について研究した彼女が選んだのは、なぜか飴をつくっている製菓会社だった。彼女の名前は池田未央みおさん、のちにアサヒコの社長になる人物である。

「実はキノコの活性成分って糖が連なった糖鎖(グルカン)という物質で、飴の原料の水飴も糖鎖なんです。キノコと飴は糖鎖という共通項を持っているんです」

だから飴の会社なのか? とちょっと突っ込みを入れたくなるが、そもそも池田さんが林学科を選んだ理由もふるっている。

「高校生のとき、日本製のノートの紙は世界でいちばん白いという話を聞いて、へぇ~すごいなと思ったんです。その一方で、アマゾンの森林が伐採されて環境破壊が進んでいるという話題もあって、日本の文化は包む文化だから過剰包装の問題もあるなと……」

だから林学科に進み、やがて林産物であるキノコに興味を持つようになった。池田さんは興味の赴くままに進路を選択しているように見えるが、不思議なことに、林業が斜陽産業であることについては、まったく無頓着だったようだ。