ジュリアナ嬢との共通点

ただ、「宝暦・天明文化」には、少しバブル時代に似ているところがある。お金が急に市中に回るようになった、という点がバブル時代と共通しているからだろう。その意味では、花魁たちの非日常的なファッションは、ディスコのお立ち台で大きな羽のついたセンスを振りかざして踊りまくった、バブル期の女性たちにもているともいえる。

ジュリアナ東京の最終日。お立ち台で踊る若者(バブル)=1994年8月31日、東京都港区芝浦
写真提供=KI/共同通信社
ジュリアナ東京の最終日。お立ち台で踊る若者=1994年8月31日、東京都港区芝浦

むろん江戸の娘たちも、経済活性化の恩恵にあずかった。この時代だから家ごとの格差は大きかったものの、多少の余裕がある家の娘たちは錦絵を見て、そこに描かれた花魁たちのファッションを、可能なかぎり真似ようとした。

その姿は、サザンオールスターズの「ミス・ブランニュー・デイ」(1984年)に歌われた、あたらしいブランドや流行を必死に追いかける女性像と重なるかもしれない。

いずれにしても、多色摺の錦絵という「オールカラーの印刷物」を通じて発信された日本初の「ファッション広告」のモデルとなったのは、吉原の花魁だった。だからこそ、親に捨てられた不幸な娘たちがアイドルに、そしてスターになったのである。

香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家

神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。