「静態的」な経済で貨幣は交換の手段に過ぎない
この「静態的」な経済においては、貨幣は交換の手段に過ぎず、それ以上の役割を果たしません。
例えば、貨幣は、貯蓄の手段になり得るはずです。しかし、「静態的」な経済では、貨幣を貯蓄する意味はありません。というのも、「静態的」な経済では、需要と供給が均衡しているので、消費のために使う量以上に貨幣を保有しておく必要がないからです。
以上が、シュンペーターの言う「静態的」な経済、つまり発展しない経済です。
実際にシュンペーターが『経済発展の理論』(初版)で展開した議論は、これよりはるかに複雑で難解です。しかし、簡単に言えば、おおむね、このような理解でよいと思われます。
「動態的」な経済ではイノベーションが起きる
それでは、「動態的」な経済(発展する経済)とは、どのような経済なのでしょうか。それは、「静態的」な経済(発展しない経済)とは、何がどう違うのでしょうか。
言うまでもなく、経済発展の原動力は、まったく新しい価値を生み出す活動、いわゆる「イノベーション」です。「動態的」な経済では、イノベーションが起きますが、「静態的」な経済ではイノベーションはあり得ません。
シュンペーターは、イノベーションという活動の本質は、「新結合」であると述べました。先ほど見たように、生産とは、既存の物や力の「結合」です。
この物や力の「結合」のパターンを変革して、まったく新しい組み合わせの「結合」を行なうことが「新結合」、すなわちイノベーションだということになります。