考えても始まらないことは考えない
感情コントロールの大切な技術に、「考えても始まらないことは考えない」というのがあります。悪い想像は「考えても始まらないこと」です。
なかなか動けない人は、この「考えても始まらないこと」にしょっちゅうつかまっている人ということもできます。シミュレーションのクセがついてしまって、動く前にさまざまな展開や結末を想像しますから、それだけでもう腰が重くなってしまいます。
しかも落ち込んでいたり悲観的になっているときには、悪い展開や悲惨な結末しか想像できずに、「やっぱりやめよう」となってしまいます。そんなことを繰り返しているかぎり、いつまで経っても悪感情から抜け出せないのです。
「すぐに動くためには、考えても始まらないことは考えない」。まず、そのことを確認してください。そして身軽に動き出すためには、ジッとしているより動いたほうがましだと割り切ることです。
「こんなことなら動かないほうがよかった」とか、「家でゴロゴロしていたほうがましだった」とか思うこともありますが、実際には「来てみてよかった」「やってみてよかった」と思うほうがはるかに多いのです。
すべてのことが「なにもしないよりまし」
それに動いたほうが感情は刺激されます。たとえ「こんなことなら」と思うことがあっても、動いたほうが気持ちは外向きになるし、期待通りの結果は出なくても意外なものと出合えたり、なにか一つぐらいは印象に残ることがあります。動かなければなにも変化は起こらず、自分の感情と向き合うだけになります。
したがって、考え方としてはつねに「なにもしないよりまし」でいいはずです。
たとえば仕事がうまくいかなくて、やる気をなくしたビジネスマンは感情も沈みがちです。そういうときはふだんよりもっと動きが鈍くなっているでしょう。
アポを取るための電話やメールも「どうせムダ」、退社後の飲み会も「シラケるだけ」、昔の友人が誘ってくれても「疲れるだけ」、同僚の勉強会も「どうぞ勝手に」、なんにもやる気がしないならデスクの整理でもすればいいのに「そんなことしたって」とため息をつきます。
でもすべて、「なにもしないよりまし」です。
いつまでもグズグズと不調を引きずっているより、気晴らしでも慰めでもいい、あるいはちょっと刺激を受けるだけでもいいから、動いたほうがいいのです。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。