泣き顔の従業員ばかりの職場
30代会社員の方からのご相談です――パワハラ上司が、上層部からきつく注意を受けたからでしょうか、怒鳴り声を上げたり、執拗に部下を責めることはなくなりましたが、イヤな人であることに変わりはありません。はっきりパワハラと呼べる行為は見られなくなっても、相変わらず泣き顔の従業員ばかりのイヤな職場です。
私は「パワハラの行為者(パワハラをする側の人)を対象としたカウンセリング」を専門に行っています。
そのためパワハラの被害者からも、頻繁に職場の様子を聞き取りしますが、相談者の方のおっしゃる悩みはよく耳にします。
パワハラ行為者が何らかの指導を受けて、大声でまくし立てることはなくなっても、その人によって引き起こされる問題がなくなるわけではない、という話です。
ここでは、行為者のパワハラが止まったように見えても、それによりサイドエフェクト(副作用)が生じる例と、その対策案を紹介したいと思います。
パワハラの被害者から見ると、ともかくなくなってほしいのがパワハラ行為ですが、パワハラは、どんな方法でもいいから止めさせれば、それで万事オーケーになるというわけではありません。
禁煙したい人が、禁断症状を和らげるために、間食の癖をつけて太ってしまったり、ダイエットに成功した人が、後にリバウンドを経験するのに似ています。
つまり、パワハラがなくなったように見えても、サイドエフェクトによって職場によからぬ事態が生じる――これは想定しておくべきことなのです。
「退職してほしい」か「残ってほしいか」
パワハラをしなくなった行為者が、またパワハラをし始めるのではなく、しばらくして退職してしまう。これはめずらしくないサイドエフェクトの例です。
その人にいなくなってほしかった人たちにすれば、それは嬉しいことですが、組織を管理する人たちにとっては、これは大きな損失になり得ることです。
会社なりの組織がパワハラ行為者にカウンセリングを受けさせる場合、パワハラ行為者に今後も勤続してほしいと望んでいるケースと、できれば退職してほしいと考えているケースがあります。
「退職してほしい従業員にカウンセリング?」と不思議に思われるかもしれませんが、簡単には従業員を辞めさせられないことも多く、また、その人の処遇について組織内で責任の所在があいまいな場合などもあり、こうしたケースはよくあります。
パワハラ行為者が退職してほしい人なら、辞めることになっても構いませんが、引き続き活躍してほしい人だと困ってしまいます。
もともと行為者には、パワハラなどで問題を起こさなければ、自らのチームを率いて、もっと大きな活躍ができる(と思える)人は多く、彼らは戦力として必要とされているのです。
「パワハラが収まったと思ったら、1年ほど経って辞めると言い出した」。これはありがちですが、避けたいパターンの1つです。