TSMC、ラピダスが日本に工場をつくった理由

IOWNのベースにあるのは、NTTによる光半導体の実証技術だ。

最近10年、国際的な通信規格を決める国際電気通信連合(ITU=International Telecommunication Union)のトップの事務総局長が2015年から中国人の趙厚麟氏で、規格委員会のトップも中国人だった。中国の企業ファーウェイが、国際通信規格の中で力を持つことができたのはそこに起因する。

それに対して2022年の9月の選挙で、アメリカと日本がトップの地位を取り戻し、2023年1月からアメリカ人のドリーン・ボクダン=マーティン氏がトップに就いた。

このままいけば、2030年には5Gの次世代である6Gが誕生する。6Gは5Gよりさらに速度も効率も格段に向上する。この6Gを利用するための戦略策定を今、推進しているわけだ。

光半導体による高速かつ低消費電力型のシステム、これをさまざまなAIに組み込むことによって、一体化した効率運用を可能とする。これを進めるのが、まさにNTTの規格のIOWNなのである。

IOWNに参加している企業は、西側世界のIT関連業界の雄であるソニー、インテル、マイクロソフトなどが占める。NTTとソニーが新たな業界フォーラムであるIOWNグローバルフォーラムを作り、アメリカのインテルを巻き込んだ形で始めている。

日本の規格ではあるが、日本だけではなくて、世界中を巻き込む形で動いていることは注目に値する。このような新しい技術、国際通信規格の趨勢を見て、TSMCもラピダスも日本に工場をつくったのは間違いない。

TSMC北米本社
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日本経済の未来を左右する国家プロジェクトが進行している

5G時代に中国が優位に立ったのは、システム、基地局、端末、ネットワークすべてがファーウェイで作れたからだった。

それに対して、西側世界のシステムは、エリクソンの下に富士通が、ノキアの下にサムスンとNECがというように、基地局でそれぞれぶら下がっている構造だった。システムはKDDIやドコモなどのネットワークメーカーが組み上げ、その下にアップルなどの端末メーカーがぶら下がっていた。

これまで、エリクソンとノキアの2系列が存在し、それぞれに決められた企業しかぶら下がれなかったシステムを、2020年にオープン化し、他の系列の企業もぶら下がれるようにして規格化した。

ファーウェイは自社で完結できるのに対し、西側はバラバラだったので効率が悪かった。そこをオープン化して対抗しようと考えたのだ。次に来るステージの6Gからは、通信事業者側がアライアンスを組んで規格を作る、すなわち上を飲み込む形を進めようとしている。

2025年は、まさにその過渡期にあるのだ。2030年に始まる予定の6Gに向けて、社会インフラ等の効率化、生成AIとの連携、半導体の国産化といったことが急ピッチで進められている。

このようなことは、ビジネスパーソンが漫然と新聞を見ていても、気がつかない動きである。数々のニュースの背景には、日本経済の未来を左右する国家プロジェクトが進行しているのだ。