テレビの情報番組が本来やるべきこと
そもそも生活費がなくて困っている人は、生活保護を受ける権利があります。
先日、某ワイドショーで、昨今の物価高によって貯金もなく持ち家もない年金受給者が生活に困窮しているという報道を見ました。
番組では、毎月6万円の年金では生活していくのが苦しいと言っている人を取材していましたが、実は年金を受給している人でも、最低生活水準を満たしていない場合は生活保護を受けることができます。
最低生活費が13万円ぐらいですから、毎月6万円の年金を受給していて他に収入がない場合、差し引いた7万円が生活保護として支給されるのです(ただし、子どもが援助可能と見なされたり働ける状態と判断された場合や、売却して生活費に充てられる財産を保有している場合は支給されません)。
また基本的に医療費も無料になります。本来ならば、テレビの情報番組はこうしたことをきちんと伝えるべきです。そうなれば、今まさに苦しんでいる人もラクになるでしょう。年金生活者が物価高にあえいでいるのであれば、その人たちがどうしたら助かるのかを伝えるのが、メディアの役割のはずです。
最低限の生活が保障されている日本
生活保護は、憲法25条の「生存権」で保障されている国民の権利です。
日本が民主国家であり、先進国である以上は当然の権利ですから、何も恥ずかしいことはありません。資産や自分の能力を活用しても最低限の生活が維持できないときには、国民は権利の行使として生活保護を利用できるのです。
そもそも消費税が導入されて以来、国に税金を払っていない人はいないはずですから、生活保護を受けることに罪悪感を抱く必要もないのです。
ひょっとしたら、そんな情報を流したら生活保護を受給したい人が増えて国の財政に影響してしまうという圧力がかかっていて、テレビ局が忖度しているのではないかと私は見ています。
とにかく覚えておいていただきたいのは、私たちの住む日本という国は、税金を払っている以上は最低限の生活が保障される国だということです。ですから、年金が少ない人は堂々と自治体に行って生活保護を申請したらいいのです。
そうすれば、今困っている人ももう少しラクな暮らしができるはずですし、月に一回ぐらいは外食で美味しいものも食べられるはずです。
とにかく、困っているときは一人で何とかしようとせず、周りの人に相談して、助けを求めること。どんなことにも、何かしらの方法はあります。常識を疑い、一人ひとりが自分らしく生きていく術を身につけていくことが、50代以降の後半生には肝心です。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。