余ったカネが日本に流れ込んできたワケ

では、なぜこれまで株高や不動産価格の高騰が発生してきたのか。

まず円安は〈ドル圏〉で取引する大企業の決算を通常以上に膨らませ、それが株高を生んだ。同時に円安は、外国人投資家にとって、日本株や日本の不動産を割安にし、外国人投資家の株投資、マンション投資を増加させた。円安だと外国からの旅費が割安になってインバウンド(外国人観光客)が増えるのと同じである。

そこに、新型コロナウイルスの世界的流行に際して、世界中で大規模な金融緩和策がとられたために、世界中に金余りが生じた。

その中で、2023年夏になると、中国の不動産バブル崩壊が深刻化し、中国の株式市場が下落を始め、米中の貿易摩擦で中国の対米輸出が激減するとともに中国への投資が減ってきた。その結果、余ったカネが円安の日本に向かって流れ込んできたのである。株投資だけではない。日本の大都市圏のタワーマンションは中国人投資家を惹きつけている。

下から見上げたタワーマンション
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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正反対の資金循環が成り立つ不思議な日本経済

それに加えて、政府や日銀が株価を支える政策をとっていることがある。

株価支持のために日銀によるETF(指数連動型上場投資信託受益権)の購入があったが、岸田政権は株関連投資に関して1800万円の非課税枠を設けた新NISAを設けて、株価を引き上げようとしている。これは明らかに金持ち優遇政策である。

2022年の総務省の「家計調査報告」によれば、2人以上の世帯の平均貯蓄残高は1901万円で、3分の2の世帯はそれ以下の貯蓄額しか持っていない。

非課税枠を1800万円に飛躍的に拡大する新NISAは、3分の1の世帯を対象にした「中高所得層」優遇政策なのである。それは、当初、金融所得課税の「1億円の壁」を超えて増税すべきとしていた岸田政権の分配重視の「新しい資本主義」とは全く正反対の政策であり、人為的にバブルを作り出して格差を拡大する政策である。

しかしひどい円安は、日本人富裕層には外貨へ投資させ、それが一層の円安を招くという資金の流れがある一方で、外国人投資家には日本の株や不動産への投資を増やすという逆の資金の流れをも生む。

いまの日本はアベノミクスの失敗の結果、この2つの正反対の資金循環が同時に成り立つ、不思議な構造が生まれている。それは2024年8月2日、5日の株のパニック売りを引き起こしたように、日本経済の体力が著しく弱まっているがゆえに、きわめて投機的で脆い構造になっている。