個人情報保護法で増えた「資料は出せません」

【泉】国民のお金がどう使われているか、わからないですね。あと最近は、あえて言いますけど、人材派遣会社のパソナなんかにも、地方自治体の場合もそうだけど、驚くほどの金を出すんですよ。だから、パソナが間に入っただけで、「パソナに出しました、以上」で、パソナに出した金額しかわからなくて、その後のお金の流れは一切わからない。

実際、中抜きがあったりします。過剰請求ですから、本来とまったく違う請求額を、自治体は払っているんですね。どこかの業者を間に噛ませて、その先のお金の流れをわからなくする。手口はかえって巧妙化していますね。

泉房穂『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』(集英社新書)
泉房穂『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』(集英社新書)

【紀藤】国政調査権についても、状況は変わりましたね。石井さんが国政調査権を行使して、各省庁から資料を入手していた時代は、個々の議員の特権として配慮されていました。だから、個々の議員が官僚を呼ぶと、比較的よく来てくれたんです。「資料を出せ」と言ったら出していた時代なんですよ。あのころはまだ牧歌的でした。

ところが、個人情報保護法ができたころ、だから二〇〇〇年以降ぐらいから、個人情報を理由に官僚も資料を出さなくなってきたのです。現在は国会議員でもなかなか資料を手に入れるのが難しくなってきています。「情報公開法と個人情報」はワンセットで、資料を出さない理由として使われています。「これは個々の企業から集めてきた情報なので出せません」とか、「市民のプライバシーがあるから出せません」「個人情報が含まれているから出せません」といった対応が、二〇〇〇年以降非常に増えてきたように感じます。いわゆる「不開示規定」ですね。

紀藤正樹氏
撮影=内藤サトル
紀藤正樹氏 出典=『わが恩師 石井紘基が見破った官僚国家 日本の闇』(集英社新書)

ささいな情報すら公表しない役人の発想

【泉】情報「公開法」とは名ばかりのもので、行政が資料を出さない根拠にしている法律ですから、逆にブラックボックス化が進んでいますね。明石市長をしていたときも、私はさんざん資料を提出させましたが、ちょっとした理由で、すぐ黒塗りで真っ黒にしてしまう。なんの利害もないような、ささいな情報すら出しません。それはやはり役人の発想です。市長なのに「資料を黒塗りするな!」と言ったのは、私ぐらいですよ。

【紀藤】だからアメリカのような情報自由化法は絶対必要なんですよ。個人のプライバシーに配慮する個人情報保護法と、後世に情報を保存する情報自由化法はワンセットでしょう。

【泉】情報の公開も、時間をずらすとか要件化するのはありですよね。情報のすべてをオープンにすると不都合な場合は、五〇年後に公開するとか、後日検証できる状況にするだけでも違ってきます。今はもう完全にもみ消せる状況ですからね。

泉 房穂(いずみ・ふさほ)
前明石市長

1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。

紀藤 正樹(きとう・まさき)
弁護士

1960年、山口県生まれ。大阪大学大学院法学研究科博士前期課程修了。リンク総合法律事務所長。消費者問題や人権問題に積極的に取り組む。著書に『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)、『カルト宗教』(共著、アスコム)など多数。