7月7日に投開票が行われた東京都知事選挙は、当初、小池氏と蓮舫氏の一騎打ちとみられていたが、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が2位に食い込んだ。NHKの出口調査によると、10代~20代の4割強が石丸氏に投票していたという。コラムニストの河崎環さんは「『石丸ショック』は、ネットでのPR戦術が若者に“効きすぎている”という問題を明らかにしたのではないか」という――。
街頭演説する石丸伸二氏。2024年6月30日、東京都渋谷区
写真提供=共同通信社
街頭演説する石丸伸二氏。2024年6月30日、東京都渋谷区

「開票0パーセント当選」への泉氏の疑問

七夕都知事選。新聞各社およびテレビ各局は、開票開始の午後8時になった瞬間に、現職である小池百合子氏の当確を速報した。

TOKYO MX(地上波9ch)で夜7時半から始まっていた「都知事選開票特番 選挙FLAG」に出演中だった前明石市長の泉房穂氏はその瞬間、疑問を隠さなかった。「マスコミが8時直前まで有権者に投票行動を煽っておいて、8時と同時に小池さんの当確を報じるのってどうなんかなと。選挙戦中も報じる候補者を数人に絞るっていうフィルターがあったわけで、これはマスコミの罪もあるん違いますか」

ただ一人の都知事を選ぶ選挙に対し、立候補者は前代未聞の56人。カオスと言われた2024年都知事選の結末は、現職による8年間の都政を追認評価する圧勝となった。そして選挙公示以来話題になった問題点――公選法のバグ、女性活躍軸への飽き、そしてネット選挙戦の台頭――を、いくばくかの後味の悪さとともに残して終わったのだ。

制度疲労を起こした日本の選挙

候補者56人。周知の通り、政治団体「NHKから国民を守る党」(以下N党)が「ポスター掲示板をジャックして広告目的に利用する」と宣言し、その掲示枠を確保するために候補者を24人も擁立するなど、多くの立候補者に選挙の理念に決して合致しない思惑があったのは事実である。

その肩書と名前を顔写真とともに読み上げるだけの紹介映像が8分にも及ぶ尺となり、ニュース番組ではそれを流すだけで1コーナーが飛ぶ。政見放送は、全員分(氏名だけの候補者も含む)を合わせると17時間を超えるという事態に。その政見放送映像にも「これは放送するに値するのか」と疑問を隠せない悪ノリを感じさせるものも少なくなく、放送局には視聴者から問題を指摘するクレームも相次いだ。

政見放送とは毎度さまざまな(珍しい)人間のありようが見られるとして話題になるものだが、今回、56人の顔ぶれを通しで見ながら「ああ、現代日本の選挙制度は完全に制度疲労しているのだ」と感じた。

N党関連候補者24人を見て、なるほどN党の(潜在的)支持者とは、こういう非凡に憧れるごく平凡な人々なのだろうと理解が進んだ。

そんな彼らを組織して制度のバグを利用し、実は税金投入されている政見放送もポスター枠も「ネット広告枠」扱い。人々からのすべての注目に対して小金を課金し「マネタイズ」するのがクレバーとされるネットマーケティング社会ならではの、法的規制にまだ引っかからないだけのグレーな(不)道徳である。