天皇ご一家の「黙祷」

また別に、見逃されがちな事実もある。

天皇陛下は東日本大震災(平成23年[2011年])が起こった翌年から、震災が発生した「3月11日」に“皇太子”として黙祷を捧げてこられた。悲しみを胸に刻み、亡くなられた方々を追悼され、国民の思いにご自身のお気持ちを重ねられるためだろう。

この時は、皇太子妃であられた皇后陛下と敬宮殿下もご一緒に黙祷をされる。それを現在まで続けてこられている。

一方、秋篠宮殿下におかれては、時代が令和に移り、皇位継承順位が第一位の「皇嗣」になられてからも、この日にご家族で黙祷を行われているという事実は公表されていない。

秋篠宮殿下の場合、現時点で継承順位が第一位という点では皇太子と共通するものの、“傍系”の皇嗣なので必ず次の天皇として即位されることが確定しているわけではない、という違いがある。このような黙祷の有無は、おそらくそうしたお立場の違いによるものだろう。

あるいは、先ごろ天皇・皇后両陛下が英国に国賓として訪れられた際、その2日目が先の大戦において沖縄での組織的な戦闘が終結した悲しみの日「6月23日」と重なっていた。この日に両陛下は例年、黙祷を続けてこられている。今年も現地において、特別なスケジュールの中でも、いつも通り黙祷をされた。

同じ日、敬宮殿下もお一人で御所にて黙祷を捧げておられる。その時、両陛下と殿下は遠い距離を越えて、1つの思いで結ばれていたはずだ。

愛子さまの前向きな覚悟

さらに敬宮殿下は、日本赤十字社へのご就職にあたり記者の質問への文書回答の中で、以下のように述べておられた。

「私は、天皇皇后両陛下や上皇上皇后両陛下をはじめ、皇室の皆様が、国民に寄り添われながらご公務に取り組んでいらっしゃるお姿をこれまでお側で拝見しながら、皇室の役目の基本は『国民と苦楽を共にしながら務めを果たす』ことであり、それはすなわち『困難な道を歩まれている方々に心を寄せる』ことでもあると認識するに至りました」。

殿下はここで「国民と苦楽を共にしながら……」をさらに一歩深められて、「困難な道を歩まれている方々に心を寄せる」というご自身の皇室像を示されている。かつて若き日の天皇陛下が、「国民とともにある皇室」から「国民の中に入っていく皇室」へと自らの皇室像を掘り下げられたのを想起させる。

進んで「皇室の役目」を背負おうとされる、敬宮殿下の前向きなご覚悟が伝わる。

敬宮殿下こそ次の天皇に最もふさわしい、と受け止めている国民は多い。それは、皇位継承の安定化のために欠かせない第一歩でもある。

このことを現実化するために必要なのは何か。「女性天皇」を可能にする皇室典範の改正だ。このところ国民から不信の目を向けられがちな国会は、新しい時代を切り開くために、今こそ勇気ある決断が求められている。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録