塔の落下を防ぐため20人がもう一度頂点へ向かう

「怖かったですけど、あの揺れで死ぬかもしれないと感じた中で、もしもゲイン塔が倒れたら、いったいどれだけ大きな被害になるんだって思ったんですよね。ゲイン塔が安定するところまでリフトアップして、なにがなんでも固定しなければならないという意志でした」

半田を先頭に、20人が再び階段を上り始めた。その姿を見ながら「作業続行」のアナウンスをしたのは、数十分前に495メートル地点で半田とともに揺れを体感した籏持。頭が下がる思いだったと、籏持は振り返る。

「あの場面だったら、普通はひるんでしまうと思うんですけど、半田さんはまったくそういう素振りを見せず、迷うことなく行動した。とにかくやるんだという意気込みと、やらなければならないという使命感ですよね。本当に勇敢だった」

40分後、半田たちは全員無事に帰ってきた。ゲイン塔は固定された。天空の大工事は、最大の危機を乗り越えた。

桜とスカイツリー
写真=iStock.com/fannrei
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震災を奇跡的に乗り越えて、目標の634メートルを達成

東京スカイツリーが634メートルに達したのは、それから1週間後のことだった。そのいただきに、一番に登ったのは半田。日本一の場所から眼下に広がる眺望を、半田は仲間たちと分かち合った苦労とともに噛みしめた。

「やったなーっていう感じでしたね。ウチの鳶さんたちも歯を食いしばって、本当に一生懸命やってくれた。達成感しかなかったです。スカイツリー建設に携わって、仕事との向き合い方も、鳶さんたちとの向き合い方も、他の業者さんとの向き合い方も、まるっきり変わったと言ってもいいと思います。この建物が、井の中の蛙だった自分を成長させてくれました」

タワーの点検に回っていた森川も、すぐにてっぺんに駆けつけた。

「今まで誰も見たことのない景色ですからね。仕事もやっていて楽しかったし、この景色をお金をもらって見られるんだから、鳶っていいなと思いましたよ。若い頃は鳶職だって言えないときもあったんです。だけど今は、スカイツリーをやった鳶職だって、自慢できますもんね」