AIはあくまで人類の「サポート役」

ディープラーニングとあわせて「シンギュラリティ」というバズワードがかつて世界的に広まった。

シンギュラリティとは、未来学者のレイ・カーツワイル氏が提唱したもので、「AIの知性(性能)が地球上の全人類の知性を超える時点」を指す言葉である。

映画『マトリックス』や『ターミネーター』の世界が約20年で現実のものになるというのだが、本来のシンギュラリティの定義は若干異なる。

本来の定義は「人間の生物的進化はあまり進まないが、そこをテクノロジーの進歩で超えよう」というものであり、むしろ進化したAIをどのように人類のサポート役として役立ててゆくか、という明確な視点を持っている。

AIをベースにした自動運転技術や医療技術の進歩は来たる高齢化社会において、より安全な移動や治療を享受できるようにしてくれるだろう。

そして英語についてはメガネに瞬時に相手の言葉が翻訳表示されるなど、まったくコストをかけず、高度な翻訳サービスが受けられるようになるはずだ。

AIは僕らを手助けしてくれるだろう。でも、それで全ての意思疎通をAIが代わりにやってくれるのかと考えると、それには時間がかかる。

まず、コンピュータによる翻訳にはタイムラグがつきものだ。

(日本語) 私は毎日英語を勉強します。
(英語) I study English every day.

日本語の文末にある「勉強します」というテキスト(または音声)をコンピュータが認識するまでは、「study」という英語に翻訳された動詞を導き出せない。つまり、コンピュータは日本語を全部聞き終わってから、英語で訳し始めるのだ。

例えば文書やEメールなど非リアルタイムの翻訳であれば、こうしたタイムラグがあっても使えるだろう。でも、リアルタイムの会話や会議ではタイムラグはストレスになる。

人間同士なら「ご飯」だけで通じ合える

また、正しく機械翻訳させるには、こちらの言葉選びが重要になる。例えば「今日ご飯いかない?」と英訳させても、こちらの意図通りに訳してくれるとは限らない。例えば、「ご飯」を「rice(お米)」と認識するといったことも、起こりうるのだ。ディープラーニングが進めば、日本人がよく使う「ご飯」は「食事」のことだと、機械のほうが学習していく。

でも、朝ご飯なのか夕ご飯なのかという区別の課題がまだ残る。

「今日ご飯いかない?」

人間同士であれば、これがたいてい夕食のことを意味することを瞬時に判別できる。

先に書いたディープラーニングでの機械翻訳が進化すると、こうした翻訳の精度は高まっていく。でも、このくらいのことを相手に伝えるのに、あなたはわざわざ翻訳機を取り出すだろうか。

英語を学ぶ意義はまさにそこにある。

POINT
AIは手助けしてくれるが、自分で喋るほうが圧倒的に早いのは変わらない。