「ターミナルレート」のメインシナリオは0.5%

さて、ここで問題が2つ出てくる。

1つ目は、日銀の利上げが0.5%で打ち止めになるのか?
2つ目は、政策金利の引き上げ幅と短プラの引き上げ幅が同じなのか?

だ。

まず、1つ目の問題は、政策金利の「ターミナルレート」がどうなるかに等しい。ターミナルレートとは、中央銀行が金融を引き締める政策を進めるとき、政策金利の最も高い水準のことで、「到達金利」とも呼ばれる(ターミナルとは「終点」の意味)。

利上げが0.5%で打ち止めになれば、今回の金融引き締め局面でのターミナルレートは0.5%ということになる。これは、現状のメインシナリオと言っていいだろう。このシナリオで推移するなら、ほとんどの人は変動型から固定型への借り換えはしなくて済むのではないだろうか。

しかし、今後、さらなる円安やインフレの進行、あるいは、予想外の景気回復などが起きた場合、政策金利が0.75%や1.0%になる可能性はある。最近の講演や記者会見での植田総裁のコメントは、そうした可能性を視野に入れている印象だ。

もし、1.0%まで追加利上げがあった場合、短プラおよび変動金利は少なくとも1.0%は引き上げられるだろう。現在の変動金利が0.3%なら1.3%程度にまで上がる。変動金利が1.3%になっても、将来的な住宅ローンの返済に支障が出ないようなら、まずまず安心できる。

政策金利よりも短プラが上昇する可能性

そこで2つめの問題が出てくる。政策金利の引き上げ幅と短プラの引き上げ幅は、はたして同じなのかどうか、という問題だ。政策金利よりも短プラの引き上げ幅が大きくなれば、政策金利が0.5%になった段階で、短プラは0.55%や0.6%といった水準もありえる。

短プラとは、各銀行が短期市場の金利実勢に応じて“独自に”決めることができる。それを、改めて思い知らされたのは、4月の住信SBIネット銀行の短プラ引き上げだ。

「マイナス金利解除ぐらいでは、短プラを引き上げる銀行はないだろう」と、筆者を含めた多くの専門家が予想していたが、蓋を開けてみれば、住信SBIネット銀行は間髪入れずに0.1%引き上げている(これは結構大きなニュースだったが、予想が外れた人が多かったせいか、あまり取り上げられなかった気がする……)。

そもそも、マイナス金利解除で短プラは上がらないという見方は、2013年4月に政策金利を0.1%から0%に下げたときに、短プラを引き下げる銀行はなかったので、0.1%に戻しても短プラはそのままだろう、という“希望的観測”に基づいたものといえる。

変動金利を短プラに連動させていない楽天銀行やイオン銀行も、短期金利の上昇で独自に金利の引き上げに動いた。

ネット銀行の台頭で銀行の横並び意識は薄まり、過去の経験則はあてにならなくなった。金利が復活した世界では、銀行の独自判断でよってローン金利が決まる、と考えておくべきだろう。