「風船会計メソッド」編み出し勉強会
しかし、自身がそうだったように、会計は初心者にはわかりにくく、人によっては学ぶ意欲を持つことさえ難しい。そこで松本さんは、初心者が楽しく会計を学べる方法を模索し、試行錯誤の末に独自の「風船会計メソッド」を編み出した。
風船会計メソッドは、売り上げを風船に置き換えたり、賃借対照表を豚の貯金箱に置き換えたりして、会計上の数字をビジュアルを使って読み解いていくものだ。おもちゃのコインと、工場や設備、従業員、銀行、税務署などのイラストを手で動かしながら視覚的に学んでいけるため、数字が苦手な人もとっつきやすい。
メソッド完成後、松本さんは社内で「めぐみ塾」を開始した。週に1回、各部署から社員が集まり、イラストや図をもとに会計の考え方を学んでいった。
一通り知識を得た後は、実践編として同じような規模の他社の決算書を分析。これが予想以上の効果を生んだ。分析結果を自社と比較することで参加者の視野が広がり、業績向上や効率化につながるアイデアがたくさん出始めたという。
「めぐみ塾の開始から3カ月後ぐらいには手応えを感じ始めました。会計にまったく興味のなかった社員たちが、自分から貸借対照表の話をするようになったんです。今では、日本の製造部門の部長の中では、当社の部長がいちばん会計がわかっているんじゃないかな(笑)」
自発的に動き始めた社員たち
その結果、大きな課題だった在庫問題は劇的な変化を遂げた。松本さんは社員の自発性を信じ、その年度中は作り過ぎに関して一度も口を出さなかった。にもかかわらず、決算を迎えたとき、前年度1億2000万円もあった在庫は6000万円にまで減少していたのだ。
「社員が自分で考えて自分で動いた結果ですよね。感動したと同時に、自分はもう嫌われ役をしなくてもいいんだと思ってホッとしました。入社当時の孤独で苦しかった時期に比べたら、今は本当に楽な気持ちで仕事できています」
さらに、利益率も大きく改善した。風船会計導入前に18.5%だった売上総利益率は、22.6%と4ポイント以上も上がった。会計知識を得た社員たちは経営者と同じ目線を持ち始め、例えば原材料の高騰などに際しても、早めに顧客と価格転嫁の交渉をするようになった。経営層がいちいち指示しなくても、自発的に手を打つようになったのだ。
また、一時的に利益が減った際には、各部署の社員たちが一緒に風船会計の図を広げて解決策を話し合うようになった。これによって、今まで部署間で起こりがちだった責任の押しつけ合いや対立が解消。コミュニケーションも活発化し、風通しのよい組織に変わっていったという。