日本人の働き方は海外と何が違うのか。オーストラリアの労働条件を取材したブックライターの上阪徹さんは「正規雇用の看護師の勤務は週4日、有給休暇は1年に6週間が当たり前」という――。

日本の常識は単なる思い込み

「あ、これで良かったんだ」「こんなことでも生きていけるのか」「もう怖いものがなくなった」「人生、捨てたもんじゃないとわかった」……。

ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在している若者たちを数多く取材した拙著『安いニッポンからワーホリ! 最低時給2000円の国で夢を見つけた若者たち』(東洋経済新報社)では、想像していなかった、思わぬ声をたくさん聞くことになった。

日本で暮らしていると、知らず知らずの間に、「成功する人生とはこういうもの」「こうしなければ生きてはいけない」「これしか答えはない」といった思いにとらわれがちだ。

しかし、海外に踏み出して長期滞在してみると、そんな「日本の常識」は単なる思い込みだったことに気づくというのである。実は人生はいろんな可能性があり、いろんなポテンシャルがあり、いろんなチャレンジが可能だということだ。

実際、こんなことを語っていた男性がいた。

「幸せな人生はこういうもの、という固定観念が日本人には強烈にあるような気がしていて。でも、オーストラリアに来てみてわかったのは、そんなことは誰も気にしていないということです。だって、幸せは人それぞれでしょ、と。好きな道を行けばいい、とあっさり言われます。それがお前の幸せだろう、と」

別の若者は、こんな話をしていた。

「発見と驚きの毎日ですから。社会に出ると、日本では変化が少ない。でも、海外に出れば、変化が毎日ある。いろんな考え方、生き方に触れられる。それは日本では絶対に感じることができないと思います。毎日が楽しいです」

1年間で300万円貯めた若者も…

シドニーに取材に向かったきっかけは、日本人の若者たちがまるで「出稼ぎ」のようにワーホリで海外に向かっているという報道だった。テレビでは、ブルーベリー摘みのアルバイトで月収50万円、カフェのアルバイトで月収40万円、介護アシスタントで月収80万円を稼ぐ若者たちが紹介されていた。最低時給が日本の2倍以上だから、アルバイトでも、こんなに稼げてしまうのだ。

この30年間で、日本はすっかり「安いニッポン」になってしまった。世界の国々では経済成長に伴って働く人々の賃金も上がっていった。アメリカやイギリスでは、約1.5倍に。オーストラリアでは約1.4倍。ドイツやフランスも約1.3倍になっている。

並べた一万円札と下向きの矢印
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ところが、日本の実質賃金の伸び率は2%。30年間、ほとんど増えていないのである。

OECD38カ国の中でも、日本の賃金水準は今や21番目の水準になってしまっている。加えて、ここ数年は急激に円安が進んだ。円の価値が下がり、相対的に海外で稼ぐことが大きな魅力になったのだ。

もちろん、海外は賃金水準と同じように物価水準が高いのも事実。オーストラリアも物価は高い。だが、家賃や食費などをうまくやりくりすれば、「安いニッポン」にいるよりも、はるかに貯金ができる。

実際、1年間で200万円貯めた、300万円貯めた、といったワーホリの若者たちも珍しくない。賃金の高さが、ワーホリの大きな魅力になっていることは間違いない。