清少納言の「推し」は意外にも道長だった
――だから、ドラマで黒木華さんと瀧内公美さんが演じる道長の二人の妻も、どちらがたくさん子を産むかで競争しているわけですね。
【辛酸】でも、そんなにモテるとは、実際の道長ってドラマのようにかっこよかったんですかね。
【大塚】道長がイケメンだったと断定する文献はほぼないですね。お兄さんの道隆が美男子だったという記録は残っています。そして次男の道兼は毛むくじゃらで醜かったとか。
【辛酸】わぁ、ドラマのイメージと違いますね。
【大塚】でも、道長は若い頃、シュッとしていたようで、正妻・源倫子との結婚を父・雅信が反対したのに対し、母親は「時々、物見などに出かけてお見かけしたところ、ただ者とは思えません」と賛成しています。さらに、あの清少納言も『枕草子』で道長を褒めていて、女主人の定子に「いつものごひいきの人ね」とからかわれたりしています。
【辛酸】清少納言のような宮仕えの女房たちの間では「推し貴族」がいたんですね。現代と変わらない感じ?
【大塚】そうですね。清少納言の推しは藤原道長ということで(笑)。
平安時代のキスの方が現代より濃厚だったかもしれない
――ドラマのオリジナル展開ですが、まひろと道長はこの時点で体の関係があり、熱烈なキスシーンもありました。
【辛酸】ドラマを見て疑問に思ったんですが、平安時代、こんなにも濃厚なキスをしていたのでしょうか。
【大塚】していたと思います。江戸時代などにはキスを「口吸い」と言いましたが、平安時代も同じようにしていたはず。むしろ今より昔の方が、五感を重視し、肌の触れ合いなど、そういう行為もより繊細に感じていたのではということを、新刊『傷だらけの光源氏』(辰巳出版)で書きました。
【辛酸】まさにそう書かれていましたね。今の日本人は淡泊になったけれど、当時はもっと濃厚な行為をしていたかもしれないと……。廃屋で落ち合って、というのはどうですか? まひろと道長が最初にいたしたのも荒れ果てた廃屋でしたし、最後にキスしたのもそうでした。場所としてはちょっと怖いような気もするんですが。
【大塚】当時はラブホテルなんてないですから、廃屋(廃院)というのも十分ありえます。(紫式部が書いた)『源氏物語』でも、夕顔は廃屋で源氏とセックスしていますね。