70歳でガンのため死去した笠置の最期の言葉とは?
笠置は1985年(昭和60)3月30日、卵巣がんのため70歳で死去した。入院中に放送された服部の伝記ドラマ「昭和ラプソディ」で自分の役を演じている研ナオコを見ながら、「日劇時代は楽しかったね」とつぶやいたのが、最期の言葉だったという。やはりブギの女王として一世を風靡し、日本劇場(現在の有楽町マリオン)で服部の楽曲を歌い、聴衆を熱狂させた日々が懐かしかったのだろう。告別式の葬儀委員長は77歳の服部が務め、先に旅立った愛弟子の死を悼んだ。
戦後の世の中を、人々を照らし、元気や生きる力を与えた人々――笠置も、服部も、淡谷も、エノケンも、皆、私生活では数々の悲しみや苦しみを経験し、それゆえに「家族」に深い愛情を注いでいた。
「ヘイヘイブギー」の一節「あなたがほほえむときは わたしも楽し あなたが笑えば わたしも笑う」という言葉が当てはまるのは恋愛の関係だけではなく、ドラマでもそう描かれたように笠置と愛娘の関係もそうだ。これこそ、まさに「ブギウギ」のテーマである。そうして、愛する家族との幸福を希求してきたのは、きっと笠置だけでない、戦後のエンタメに生きた人々の願いだったのだろう。
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など