呼吸で不安を落ち着かせる

簡単に無理なく不安を抑えられる方法が、実は2つもあります。毎回効くとは限りませんし、全員に効くというわけではないですが、多くの人が効果を感じられます。

不安が近づいてくると感じたら、いったん手を止めて、長い深呼吸を何度かしてみましょう。吸う息よりも吐く息を長くしてください。目安としては4秒かけて吸い、6秒かけて吐く。普段の呼吸よりかなり遅いので、あらかじめスピード感をつかんでおきましょう。

効果の理由:自律神経は身体の色々な器官の働きをコントロールしていますが、自分の意志では動かせません。ですが呼吸によってバランスを整えることは出来ます。自律神経には2種類あり、交感神経は「闘争か逃走か」、副交感神経は「消化」や「心の落ち着き」に関わっています。

息を吸うと交感神経が活発になります。心臓が少し速く打ち、「闘争か逃走か」寄りになります。短距離競争のスタート前に走者が素早く何度も呼吸をしてコンディションを上げようとするのは、そのためです。

しかし息を吐くと、今度は副交感神経が活発になります。心臓の打ち方が少しゆっくりになり、心が落ち着くのです。

吐く息を長くすると驚くほど効果があります。肺からゆっくりと空気が出ていくにつれ、不安も流れ去るのを感じるでしょう。

座って呼吸をしている人
写真=iStock.com/Igor Barilo
※写真はイメージです

言葉にすることで感情に引きずられにくくなる

自分の気持ちを言葉にし、説明するというのも良い方法です。出来る限り正確に自分の感情を表現してみましょう。上達すると自分の中で起きていることを少し距離をおいて、つまり客観的に見られるようになり、感情に引きずられにくくなります。

アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)

効果の理由:左右の脳半球に1つずつある前頭葉は脳の中でも最も高度な機能を持った部位です。前頭葉の中央部分は簡単に言うと自分自身にフォーカスしていて、身体の中で何が起きているのかを把握し、感情やモチベーションといったものに働きかけています。一方、前頭葉の外側の部分は周りで起きていることにフォーカスし、問題解決や計画といったものに関わっており、扁桃体が警報を鳴らした時にブレーキをかける役割も担っています。話している相手が怒り出したら扁桃体は警報を鳴らします。怒っている人間は危険だからです。扁桃体が働き出すと心配と不安が募りますが、「おや、この人は怒っているみたいだ。怖いな」と言葉で表現すると、今度は前頭葉の外側の部分が活発になり、扁桃体を落ち着かせることができるのです。

自分の感情や原因を言葉にすることで、脳のフォーカスが外の世界を把握する前頭葉の外側の部分に移り、視点も自分の中から外に移るわけです。それが暴れる扁桃体を抑えてくれます。

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
精神科医

ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。