海外で話題の本の翻訳書が出版中止に
KADOKAWAから今年1月に発売予定だった『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(アビゲイル・シュライアー著、岩波明監訳)が発売停止になった。
原書は、英国の『エコノミスト』誌の2020年の「その年の本」、2021年の同じく英国の『ザ・タイム』紙と『サンデータイムス』紙のベスト本に選ばれ、10カ国もの国で翻訳されている話題の本であった。
昨年12月に、その翻訳書が日本でも発売されるという告知を見たが、Amazonのサイトでは即座に、予約だけでジェンダーの領域で1位となった。書籍全体で26位にまでなったのを見たという人もいるらしい。
ところが告知がネットで知られてから数日のうちに、出版が停止になってしまった。現代の日本で、出版の予定が既に周知されていた本が出版停止になるというのはまれなことだ。この知らせは相当の驚きをもって受け止められていた。
その一方で、「とうとう来たか」と感じた人もいる。私もそのひとりだ。
この本については、SNSなどで出版に反対する声が上がり、出版関係者からもそうした動きがあった。KADOKAWAとは仕事をしないという著者が現れたほか、出版関係者(出版社勤務・書店勤務・著者等)24名による「トランスジェンダー差別助長につながる書籍刊行に関しての意見書」が出された。一時は出版元のKADOKAWAの社屋の前で抗議集会も予定された。そこまでくれば、出版はなかなか厳しいだろうと思われた。
「ジェンダー肯定医療」のあり方に一石
本自体は、思春期における「ジェンダー肯定医療」のあり方に一石を投じるもので、多くの当事者、とくに親にインタビューをおこなったものである。いわば一見、普通のノンフィクション本として、とりたてて瑕疵があるようには見えない。
ジェンダー肯定医療とは、性別違和を訴える子どもには、そのまま違和を肯定してやり、速やかに思春期ブロッカー(第二次性徴を抑制する薬剤)や異性ホルモンなどを投与するホルモン治療、性別適合手術をおこなうといった方針の医療を指す。そうすることで、子どもの希死念慮がなくなり、質の高い生活を送ることができるという考え方だ。