「呪いのストーリー」をイメージする
これにはもう本当に腹が立ちます。自分より身体的に弱い立場の小柄な女性にわざとぶつかってストレスを発散しているのでしょうか? その人にとってはストレスコーピングでも、こちらにとっては完全に暴力です。本当なら捕まえて警察に突き出して暴力事件として処理してもらいたい案件です。しかしそれも難しい。本人がすでにいなくなっちゃっているので。
そこで、こういうときは、イメージワークをすることにしています。身体をぶつけたおじさんをぶん殴るイメージとか、背後から飛び蹴りをするイメージとか、現行犯逮捕されて面倒なことになるイメージとか、そういう単純なイメージをすることもありますが、私はもっと念入りに、その人が今後、次から次へと不幸な目に遭って(例:野生の猿に襲われる、落とし穴にハマる、携帯や財布を落として2度と見つからない、雷に打たれる)、最終的には死んだら地獄に落ちて、死んでからもずっと不幸が続くといった「呪いのストーリー」をイメージするのです。
「何と人が悪い」と眉をひそめる人もおられるかもしれませんが、一方的にやられた側としては、このぐらいのイメージを作ってようやく怒りが若干治まる程度です。
こんなふうにイメージを伴うストーリーを作ることで、思い直しすることができるのです。もちろんこういう呪いのストーリーだけでなく、自分がハッピーになるストーリーをイメージするのでも全く構いません。コツはとにかく本気でリアルにイメージすることです。
以上、認知再構成法の思い直しについて、私自身が重宝している3つのやり方をご紹介しましたが、重要なのは自動思考に気づきを向け、それに巻き込まれず、マインドフルに受け止め、そのうえで、対話をするなりセルフ・コンパッションをするなりイメージをするなりすることです。自動思考に気づくことが重要な第一歩なんだ、ということを忘れないようにしてください。
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。専門は臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法。大学院在籍時より精神科クリニックにてカウンセラーとして勤務。その後、民間企業でのメンタルヘルスの仕事に従事し、2004年より認知行動療法に基づくカウンセリングを提供する専門機関を開設。主な著書に、『事例で学ぶ認知行動療法』(誠信書房)、『自分でできるスキーマ療法ワークブックBook1&Book2』(星和書店)、『ケアする人も楽になる 認知行動療法入門 BOOK1&BOOK2』『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法 BOOK1&BOOK2』(いずれも医学書院)、『イラスト版 子どものストレスマネジメント』(合同出版)、『セルフケアの道具箱』(晶文社)、『コーピングのやさしい教科書』(金剛出版)などがある。