顔に自信がない人は整形手術でルックスを変えれば幸せになれるのだろうか。精神科医であり形成外科医でもある中嶋英雄さんは「美容整形外科を訪れる人の約20パーセントが『自分は醜い』と思い込む身体醜形症の傾向を持っているという報告も。身体醜形症だから整形したいと思うのか、その逆かはわからないが、心(こころ)を病んでいるときに整形手術を受けてはいけない」という――。

※本稿は、中嶋英雄『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)の一部を再編集したものです。

女性の顔のアップ
写真=iStock.com/SetsukoN
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美容整形をきっかけに身体醜形症になってしまうタイプ

美容整形と身体醜形症は、とても微妙で複雑な関係にあります。

私はもともと形成外科として手術をしていた側ですから、美容整形そのものを否定するつもりはまったくありません。ただ、実際に美容整形外科を訪れる人の20パーセントほどが身体醜形症の傾向を持っているという報告も出ています。つまり整形手術を受ける以前に、すでに心の病気を抱えている人が多いということです。

美容整形のせいで身体醜形症になったのか、もともと身体醜形症だったから整形をしたのか、どちらが先であったかを解明することには、あまり意味がないのかもしれません。

はっきりしているのは、双方が相互に深く関係しているということ。そして、安易に美容整形の手術を受けてはいけないということです。

レジリエンス(精神的な回復力)が弱いままで美容整形手術を受けても、結果に満足できずに顔へのとらわれが悪化してしまうことが多いからです。

手術というものの事情をきちんと理解しているか否かも、術後の悩みや不安の原因になります。いったいどんな手術でどんな経過をたどるのか、それらをどう受けとめればいいのか。そうしたプロセスについて医師から説明をしっかり受けていなかった場合、よけいに不安がつのります。

病気の診断や治療を受けた際、それが本当に正しい選択だったかを不安に思うことは誰にでもあることです。どんな病気や手術であっても、あなたには患者としてセカンドオピニオンを受ける権利がありますし、美容医療は自由診療ですから、なおさらその治療が妥当であったかどうかを知りたいと思うのは当然です。

整形で浮き彫りになる幼い頃の「心の傷」

整形手術で失敗してしまったという不安でいっぱいになっている患者さんには、まず今後の経過の見方や考え方についてお話しし、気持ちを落ち着かせてもらいます。

ただ、整形後、あきらかに身体醜形症の症状が悪化してしまう方もいます。

気に入らない部分を治せばすむと思っていたその問題は、じつは心の痛みだったことに、整形してみてはじめて気づいたというような場合です。

その背景には、生育環境や思考パターンの問題がやはり見え隠れします。

とくに幼少期の母親との関係が、この身体醜形症に特有の心理を生み出してしまう原因になりやすいと感じます。