災害発生予測の24時間前に広域避難指示が出たら区外へ

最悪の場合の被害想定を考えましたが、私たちとしては被害がそこまで広がらないようにさまざまな対策に取り組んでいます。気象予報の進化で台風や大雨の経路は事前にわかりますから、区民にはラジオやテレビ、Twitter(現・X)、LINE、防災アプリ、メールなどを通して72時間前、48時間前、24時間前、9時間前と段階的に避難を呼びかけます。

区外の避難先は親戚や知人宅を想定してはいますが、それができない人も当然いるでしょう。そこで、区外のホテルなどに避難した場合、宿泊代に対して補助金を交付する仕組みをつくりました。

また、高層の建物などを避難場所として整備する「高台まちづくり」を進めており、その一環として、水害にあっても防災機能を維持できる新庁舎を建設中です。水害対策にはそうしたハード面と、ハザードマップや避難支援などのソフト面の両方から取り組んでいく必要があると考えています。

新庁舎が建設される都営新宿線・船堀駅前
撮影=プレジデントオンライン編集部
新庁舎が建設される都営新宿線・船堀駅前。台風による高潮浸水想定最大規模では黄色の線と赤線の間(3~5m未満)

ハザードマップ発行後の世論調査では、区民の約4割が「広域避難できる」と回答しました。一定の効果は見られていますが、残り6割の方々への対策もしっかり検討していかなければなりません。そのひとつとして、2023年4月に「災害要配慮者支援課」を立ち上げました。

高齢者や避難しにくい人たちを取り残さないという使命

水害対策の“一丁目一番地”は、人の命と財産を守ることです。その観点からも、災害時に自力で避難できない方や避難生活が困難な方の支援強化は必須です。高齢の方や障害がある方、妊娠中の方、乳幼児などへの支援は部署ごとの縦割り業務になってしまいがちですが、それでは迅速な対応はできません。そこで、自分はこの縦割りに真正面からぶつかっていこう、オール江戸川区で支援できるようにしようと思ったのです。

もう40年ほど前の話になりますが、私は福祉関係の仕事につきたいと思っていました。でも、当時、民間にそうした仕事はほとんどなかったのです。夢をかなえようと思ったら選択肢は公務員しかなく、それで江戸川区役所に入区しました。そうした福祉への思いは、先ほどの「災害要配慮者支援課」の立ち上げにもつながっています。

斉藤猛・江戸川区長
撮影=市来朋久
斉藤猛・江戸川区長

職員時代は、まさか自分が区長になるなんて思ってもいませんでした。出馬したのも、実は前任の区長に面と向かって「やれ」と言われたからなんです。私はとてもそんな器ではないので、最初は冗談かと思いました。何度かお断りしたのですが、最終的には「そこまで言っていただけるなら」「役所生活40年の経験が皆さんのお役に立つのなら」と手を挙げた次第です。