東京都江戸川区では大規模な水害が予想されるときは全区民が区外へ避難すべきという思い切った啓発を行っている。江戸川区の斉藤猛区長は「様々な専門機関と連携し、浸水リスクを図解したハザードマップを配布している。2023年の梅雨は明けたが、これから台風のシーズンになり、海抜ゼロメートル地帯の江戸川区ではまだまだ警戒が必要だ」という――。

話題のハザードマップができた経緯とは

江戸川区では、2019年5月に江戸川区水害ハザードマップを11年ぶりに改訂しました。水害時の危険性をより明確に伝えるため、表紙には「ここ(区内)にいてはダメです」という言葉を入れています。これがインパクト大だということで、多くのメディアに取り上げられ、今なおSNSなどで話題にしていただいているようです。

江戸川区ハザードマップ
江戸川区ハザードマップ

このハザードマップは多田正見前区長の下で改定されたもので、この言葉は前区長ご本人の発案だと聞いています。もともと、2018年発行の江東5区(江戸川区、墨田区、江東区、足立区、葛飾区)が共同で作成したハザードマップに「あなたの住まいや区内に居続けることはできません」という文言があり、これをよりわかりやすく伝えようということで現在の表現になったそうです。

基本的に、私たち行政が発信する言葉ってつまらないですよね(笑)。文書でもチラシでも、皆さんの目を引くようなインパクトのある言葉を使うことはほとんどありません。でも、どんなに一生懸命パンフレットをつくっても、見てもらえなかったら存在しないのと同じ。だからこそ前区長はあえて強烈なフレーズを採用したのだろうと思います。

「自分の区にいちゃダメって何だ」という批判的な意見が多数

私は、このハザードマップが発行された月に区長に就任しました。全戸への配布や町会単位での説明会を実施したところ、区民の皆さんからさまざまな意見が寄せられました。「心構えができた」といううれしい声もありましたが、ほとんどは批判的な意見です。

「自分の区にいちゃダメって何だ」「区外ってどこへ行けばいいんだ」「区外に逃げろだけでは区としての責任が果たせていないと思う」「『ここにいてはダメです』の表現にインパクトがありすぎて戸惑っており、引っ越しも考える」「不安だけあおっているようにしか思えない」──。

でも、批判が多いということは、それだけ見てもらえているということ。私たち行政にとっていちばん怖いのは“無関心”です。まずはそこをクリアできなければ、ハザードマップの本来の役割も果たせません。ですから、さらに多くの区民に自分ごととして考えるきっかけにしてもらおうと、いただいた意見は肯定的なものも批判的なものも含めて、区の広報誌の一面に掲載しました。