封建的な親の価値観が嫌だったがその連鎖が自分の子にも

<解説>

親が子どもたちを等しく扱わないことは、実はよくあることです。ヒロシのケースでは封建的な地域ということですから、旧民法で定められた家制度、つまり戸主として家全体の支配権を有することになる長男とそれ以外のきょうだいの間には、親による扱いに雲泥の差があったと思います。大学に行かせてもらうなど、もっての外だったかもしれません。

宮口幸治、神島裕子『逆境に克つ力 親ガチャを乗り越える哲学』(小学館新書)
宮口幸治、神島裕子『逆境に克つ力 親ガチャを乗り越える哲学』(小学館新書)

そうしたいわば「身分制度」が嫌だったヒロシは、家を離れ、都会で就職しました。もしヒロシの両親が「本家とか分家」にこだわらない、きょうだいを平等に扱う人たちだったら、どうだったでしょうか。ヒロシは田舎に留まっていたかもしれませんし、都会に来ていたかもしれません。後者の場合でも、今と同じように学歴や訛り、子どもの教育費などで苦労していたかもしれません。ただし、自分の子どもたちを平等に扱っていた可能性があります。

ヒロシは自分が、自分の子どもたちを不平等に扱っていることを、下の子が女児だという理由で正当化してしまっているのかもしれません。封建的な親の価値観で将来が縛られたという点でハズレガチャで、その呪縛が、別の形で自分の子にも連鎖しそうになっているのです。

神島 裕子(かみしま・ゆうこ)
立命館大学教授

博士(学術、東京大学大学院総合文化研究科)。早稲田大学国際教養学部、中央大学商学部を経て現職。専門分野は哲学・倫理学。著書に『正義とは何か 現代政治哲学の6つの視点』、共訳書にジョン・ロールズ『正義論 改訂版』など。

宮口 幸治(みやぐち・こうじ)
立命館大学教授

児童精神科医・医学博士。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。一般社団法人「日本COG-TR学会」代表理事。臨床心理士。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務し、2016年より立命館大学教授に就任。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』『歪んだ幸せを求める人たち』(以上新潮新書)、『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)ほか多数。