子どもの置かれた現状について研究する哲学者の神島裕子さんは「親が子どもたちを等しく扱わないことはよくある。ジェンダー平等が求められる現在においてもなお、女の子は大学に行く必要がないと考える親もいる。これまでの研究を基に、男の子と女の子を持つ家庭のモデルケースを作成した」という――。

※本稿は、宮口幸治、神島裕子『逆境に克つ力 親ガチャを乗り越える哲学』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

モデルケース3、成績優秀なのに大学に進めない高1のユカ

ユカは高校1年生で公立高校に通っています。タケシとツトムとはいとこに当たります。通っている学校は進学校ではありませんが、大学に進学しない生徒はごく少数派です。ユカには、「進学にかかわる悩み」がつきまとっています。

小学生のときは勉強ができて、クラスでも一番目か二番目の成績でした。両親ともに公立出身でしたし、ユカの成績や進路には関心がなかったので、私立中学に行くという選択肢はありませんでした。高校受験のときにも、親からなんのアドバイスもありませんでしたが、ユカは親にお金の迷惑をかけまいと、絶対に合格できる偏差値の公立の高校を受験しました。

「科捜研の女になりたい」という夢を親は取り合ってくれない

結局、ユカは妥協して選んだ公立の高校に通い始めました。同級生たちはあまり向学心のない子がほとんどで、ユカが教室で勉強していると、からかわれることも多く、学校では居場所のなさを感じています。ストレスでついお菓子を食べてしまいますが、乳製品アレルギーのため、食べられるお菓子の種類は限られています。これもまたストレスです。

それでも、小学校のときから見ているドラマで主人公が勤めている科学捜査研究所に憧れていて、そのためには大学に行く必要があると思っています。大学受験のために勉強をしたいのですが、どんな大学に行けばよいかも、実はよく分かっていません。塾に行きたいと両親に相談したこともありますが、「女の子なんだから大学は行かなくていいんじゃない?」などと、真剣に取り合ってもらえません。

それどころか、特に母親はユカが勉強をしていると、おもしろくなさそうな顔をしています。ユカは、家にお金の余裕がないことは分かっています。でも奨学金を借りたり、アルバイトをしたりすれば、なんとかなるんじゃないかとも思っています。学校で進路相談が始まるまで、ひとまず待つつもりです。