胎教から始まった夫の「独自教育」
モラハラ離婚の案件を担当するうちに見えてきたことがあります。それは、モラハラ夫にはいくつもの共通点があること。なかでも、非常によく見られる異常な教育熱心さが引き起こした事例をご紹介しましょう。
B美さんは、地方女子大出身の27歳。小さな頃から夢だった子ども教育に関わる仕事に就いて5年目、知人の紹介で現在の夫と出会いました。
4歳上で地方国立大学の出身、医療機器メーカー勤務。すぐに「優秀そうな人だから教育にも興味がありそうだし、子どもも頭のいい子に育つかも」と、お見合いからトントン拍子に結婚へと進みました。
子どもを授かると、夫はまず、胎教にのめり込みました。クラシック音楽を流すこと、一日5冊、英語の絵本の読み聞かせをすること。この2つを、出社前に必ず指示するのです。
そして帰宅後の第一声は「今日もちゃんと胎教をやったか?」でした。夫の教育に対する想像以上の熱量に驚きながらも、その熱心さをほほえましく思っていたのですが……。生まれた男の子が3歳になった頃から、違和感を覚え始めたと振り返ります。
幼稚園から九九、間違えるとテーブルを叩いて激怒
夫は長男に先取り教育を開始。足し算、引き算、五十音の暗記。幼稚園に入ると次は九九。暗唱につまずくと「2×4は8だろう⁉ こんなこともわからないのか!」と、テーブルをドンドンと叩いて、ヒステリックに怒るようになりました。
九九が終わると次はローマ字。浴室の壁に防水のアルファベット表を貼り、すらすら言えるまで風呂から出しません。長男がのぼせて泣き出したので、B美さんが風呂から出そうとすると、「これからは英語の時代だ! 低学歴が邪魔するな!」と罵倒します。
長男が小学校に入ると、夫の「教育」はさらにエスカレート。誕生日プレゼントは頭が良くなるパズルの本で、それ以外のおもちゃは禁止。トイレの壁には「頭が良くなる風景写真」なるものを貼り付けて、長男がトイレに入ってすぐ出てくると、「写真をじっくり見ないとバカになるぞ」と怒鳴り、またトイレに押し込めます。
テストで100点を取れなかったら、長男をクローゼットに閉じ込めて、泣いても出してあげません。このままでは長男がおかしくなってしまうと思い、B美さんは塾に入れることを提案しました。しかし話を聞いた夫は顔をしかめ、「塾はお前のようなバカを相手に金儲もうけをしているだけ」「塾講師は応用力のない人間の集まり」と、学習塾への悪口をせきを切ったように言い出したのです。
そこでB美さんは今までの違和感の正体に気がつきました。夫は子どもを賢くしたいのではなく、自分の管理下で何かをやらせたいだけなのではないか。
その頃から、長男は父親が帰ってくる頃になるとお腹が痛いと言うようになりました。子どもを泣かせてまで独自教育に走る夫の姿に、真剣に離婚を考えるようになりました。