過度な要求にカッとなってはいけない

常識的と思えない要求を受けたときには、1つ注意点があります。

前出のA氏のように贈り物をせがむ人ばかりでなく、夜の街で遊ばせてほしいという人もいれば、海外では観光案内をしてくれという人など、さまざまなことを求めてくる人がいます。

私はあるとき、どうしても急に時間をとってほしいと言って聞かないクライアントが、事務所に押しかけてきて、何の話かと思っていると、「米国出張の際に、ディスカウントの航空券を買って、自分の会社には正規料金で買ったように見せかけて、上手く差額を懐に入れる方法はないだろうか」と尋ねられたことがあります。

こんなことに知恵を貸してくれと求められたら、私も含めた普通の人は、腹を立ててしまうと思います。しかし、どんな要求を受けても、カッとなって、怒ってはいけない理由があります。

倫理的に許せないと思う要求をされることはあるかもしれません。しかし、そんなときに「自分がどう感じたか」だけでは、対応の仕方は決めないようにします。

もっとも、前出の航空券のことなどは、そうした相談には応じられないと、はっきり答えれば済む話です。私もそのときには、そのように即答しています。

ただ、長く社会人をやっていると、「なぜこんなに平然と賄賂を求めてくるのか」と不思議に思うようなこともあるのです。

自分の感触だけで返答してよいとは限らない

相手のあからさまな態度が不思議で調べてみると、(あくまでも一般的な話ですが)自分の会社から相手の会社へ、過去にその手のものを積極的に提供していたことがあったりするのです。

自社の担当者は変わり、現在は自分が担当者になっていますが、過去のある時期に何年間もそんな関係にあった相手が、それを周知のことと想定して話している――こんなことがあるものです。

そのため、そのときに自分が受けた感触だけで返答をするのが、よいとは限らないのです。

場合によっては、自分が担当する以前からの取引について、さかのぼって調査をして、その要求を「どう扱うべきか」判断することになる。倫理的におかしいと感じても、すぐさま相手にNoを突き付けられない――そんなところが、袖下関係の取り扱いの難しいところです。

なぜこんなふうに贈り物を求められるのか。調べてみると、そんな贈り物くらい何でもないと思えるような関係があった。あり得なくはない話です。

あまりに厚かましい相手がいたら、疑ってみてもいいでしょう。これを読んで、大げさすぎると感じられたら、もちろんそのほうがよいのですが。

松崎 久純(まつざき・ひさずみ)
サイドマン経営・代表

もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』(光文社)『英語で学ぶトヨタ生産方式』(研究社)『英語で仕事をしたい人の必修14講』(慶應義塾大学出版会)など多数。